イヴ・キュイロン/Yves Cuilleron

Yves Cuilleron
北ローヌの風を映すテロワールの名手
北ローヌ地方の斜面に吹く風と太陽を肌で感じながら、イヴ・キュイロンは若い頃からひたすらに土地を聞き、ワイン造りを築いてきました。コンドリュー、サン・ジョセフ、コート・ロティなど、北ローヌの主要産地で名声を得た彼のワインは、香りと構造の精密さ、そして土地の記憶を映し出す表現力によって、世界中のワイン愛好家やソムリエから高く評価されています。
キュイロン家のワイン造りは三代にわたります。祖父の代からブドウを育てていた伝統を引き継ぎ、1987年にイヴ自身が自らのドメーヌを立ち上げました。当初わずか3.5ヘクタールから始まった事業は、妥協なく品質を追求する仕事ぶりによって徐々に広がり、現在では50ヘクタールを超える所有規模を誇ります。彼のぶどう畑はヴェリュー (Chavanay) を拠点とし、急傾斜地や段々畑が多く、斜面の角度や石の配置、日照の違いを細かく捉えた区画管理がなされています。これらの区画で育つヴィオニエやシラ、マルサンヌ、ルーサンヌといった品種は、まさに北ローヌの土壌気候をそのままワインに閉じ込めたかのような個性を持ちます。
キュイロンのワインは、まず香りで注目を集めます。白ワインではアプリコット、白桃、柑橘、白い花、ハーブが重なり、やがて蜜やナッツ、ハチミツのニュアンスを帯びるものが多く見られます。口に含むと経過が驚くほど緻密で、酸の輪郭とミネラルがしっかりと支えられています。余韻には琥珀質の温かさとスパイス感が現れ、次第にそのワインの個性を語りかけてきます。赤ワインは、ラズベリー、ブラックチェリー、スパイス、胡椒、鉄分、植物の葉、スモークといった層が折り重なり、タンニンは滑らかでありながら引き締まりを有し、透明さとパワーを兼ね備えています。
彼の代表キュヴェには、コンドリューの「Les Chaillets」「Verlieu」などが挙げられ、ヴィオニエの表現力を極限まで引き出す作品として知られています。一方で、コート・ロティの「Terres Sombres」や「Bassenon」など、シラ100%で土壌の個性を強く示す赤も手がけ、白・赤双方において才能をいかんなく発揮しています。
Yves Cuilleron は、北ローヌ地域という広大な舞台で、華やかさや奇抜さではなく、緻密な構造と土地の声を信じる「静かなる強さ」をワインに刻む名手です。そのワインは、飲む者を香りの世界へ誘いつつ、余韻の静けさで心に残る時間を提供してくれます。