ローヌ

ローヌ地方は、フランス国内でボルドーに次ぐワイン生産量を誇る南フランスの銘醸地です。ローヌ川に沿って南北250キロにわたって広がり、北部と南部でブドウ品種・土壌・気候のすべてが大きく異なるという、ひとつの産地名でありながら実質的に二つの異なるワイン産地が存在するような奥深さを持っています。

ワイン造りの歴史

ローヌのワイン造りは紀元前4世紀、ギリシャ人がマルセイユに植民した時代から始まったとされ、紀元1世紀頃にはローマ人がヴィエンヌ(現在のコート・ロティ周辺)まで栽培を広げ、イタリアのワインに匹敵する評価を得ていました。476年の西ローマ帝国崩壊によってワイン産業は大きな打撃を受け、長い停滞期を迎えます。

14世紀、ローマ教皇庁がアヴィニョンへ移転すると、歴代の教皇たちはこの地のワインを好み、アヴィニョン近郊やシャトーヌフ・デュ・パプ周辺に大規模な葡萄畑を整備しました。「教皇の新しい城(シャトーヌフ・デュ・パプ)」という地名自体がこの歴史を物語っており、当時のワインは「ヴァン・デュ・パプ(教皇のワイン)」と呼ばれていました。1650年には産地と品質を保証するための規制が導入され、19世紀半ばには左岸の畑も含めて「コート・デュ・ローヌ」という名称が定着します。1923年、シャトーヌフ・デュ・パプの造り手バロン・ル・ロワが偽造ワイン対策として独自の生産規定を制定し、これが1936年のAOC制度創設の原型となりました。シャトーヌフ・デュ・パプはフランスで最初に認定されたAOCのひとつとして、今日のフランスワイン法の礎を築いた産地でもあります。

北ローヌ(Septentrional)

ヴィエンヌからヴァランスまで続く北ローヌは、ローヌ全体の生産量のわずか5%程度を占めるに過ぎませんが、世界的な知名度を誇る小さなアペラシオンが集中する産地です。狭い渓谷に急斜面の畑が連なり、花崗岩や片岩質の土壌、比較的穏やかな大陸性気候のもとで、シラー単一品種による赤ワインが造られます(コート・ロティのみヴィオニエの混醸が伝統的に許容されています)。白ワインにはヴィオニエ、マルサンヌ、ルーサンヌが用いられます。

北ローヌの主要アペラシオンには、ヴィオニエを伝統的に混醸する華やかなコート・ロティ、シラーの最高峰として知られるエルミタージュ、より親しみやすい価格帯のクローズ・エルミタージュ、ヴィオニエ100%の芳香的な白ワインを生むコンドリュー、骨格としなやかさを兼ね備えるサン・ジョセフ、力強く長熟型のコルナスなどが挙げられます。それぞれの畑は規模が小さいながら、シラーとヴィオニエという南ローヌとは全く異なる個性を持つ品種構成によって、北ローヌ独自のワイン文化を形成しています。

南ローヌ(Méridional)

広大な面積を持つ南ローヌは、ローヌ地方全体のワイン生産量の大部分を担っています。「ローヌワインの至高」とも称されるシャトーヌフ・デュ・パプをはじめ、力強い赤ワインで知られるジゴンダスなど、地中海性気候のもとで多様なスタイルのワインが生まれます。土壌は粘土、砂、丸石(ガレ)から石灰岩の砂礫層まで多岐にわたり、この土壌の多様性が南ローヌワインの個性を形作っています。

南ローヌを代表する品種はグルナッシュで、シラーやムールヴェードル、サンソーなどとブレンドされ、たっぷりとした果実味と円みのある味わいを持つ赤ワインが主流です。シャトーヌフ・デュ・パプでは認可された13品種(現行規定では18品種)を使うことが許されており、グルナッシュを中心とした複雑なアッサンブラージュがこの産地の真髄を成しています。主要アペラシオンには、ダンテルの山々に守られたジゴンダス、より親しみやすい価格帯で評価されるヴァケラス、ローヌ唯一のロゼ専門アペラシオンとして「ロゼの王」を自称するタヴェルなどがあります。