サン・ジュリアン/Saint-Julien

Saint-Julien
サン・ジュリアンは、フランス・ボルドー地方のメドック地区に位置するアペラシオンで、ジロンド河の左岸に広がっています。北にポイヤック、南にマルゴーを抱き、その中間に位置しているため、両者の特徴をバランスよく備えているといわれています。面積はおよそ920ヘクタールとボルドーのアペラシオンの中では小さめですが、そこに11もの格付けシャトーが集中しており、全体の品質が非常に高いのが特徴です。ワイン愛好家の間では「外れのない産地」として、安定感と信頼性を誇る地域として知られています。
サン・ジュリアンの歴史をひもとくと、17世紀から18世紀にかけて畑の開発が進み、19世紀にはすでに高品質なワインの産地として名声を確立していました。1855年のメドック格付けでは、サン・ジュリアンから11のシャトーが選ばれました。第1級は存在しませんが、第2級にはレオヴィル=ラス・カーズやデュクリュ=ボーカイユ、グリュオ=ラローズといった名門が名を連ね、実力的には第1級に迫る「スーパーセカンド」として世界的に高い評価を受けています。また、第3級や第4級にも、ベイシュヴェルやブラネール=デュクリュといった名門が並び、アペラシオン全体として格付けワインが占める割合が非常に高い点がサン・ジュリアンの大きな特徴です。
サン・ジュリアンのテロワールは砂利質土壌を主体とし、部分的に粘土や石灰質も混じる複雑な地質を持っています。砂利は水はけがよく、ブドウの根が深く伸びることを可能にします。そのため、ブドウは乾燥や多湿といった気候変化にも強く、安定した品質の果実を実らせることができます。また、砂利は日中に熱を蓄えて夜間に放出する性質を持つため、ブドウがゆっくりと均一に成熟します。気候は大西洋とジロンド河の影響を受け、海洋性の穏やかな環境が広がっています。これにより、遅霜を避けやすく、過熟にもならないバランスの良い条件が整っています。
栽培される品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンが主体で、全体の50〜70%を占めることが多いです。カベルネ・ソーヴィニヨンはワインに骨格と力強さ、そして長期熟成のポテンシャルを与えます。メルローは20〜40%ほど補完的に用いられ、果実味や柔らかさを与え、若いうちから飲みやすいスタイルを実現します。さらに、カベルネ・フランやプティ・ヴェルドが少量加わることで、香りやスパイス感に複雑性をもたらします。このようなブレンドにより、サン・ジュリアンのワインは力強さとエレガンスを兼ね備えた均整の取れた味わいに仕上がります。
サン・ジュリアンのワインのスタイルは、しばしば「ポイヤックの力強さ」と「マルゴーの優雅さ」の中間に位置すると表現されます。実際にテイスティングをすると、ブラックカラントやカシス、ブラックチェリーなどの黒系果実の風味に、スミレや杉、スパイスの香りが重なります。若いうちはしっかりとしたタンニンが特徴的で、余韻には骨格のある力強さが残りますが、熟成を経るとシルクのように滑らかになり、トリュフやタバコ、革、土のニュアンスが加わって複雑さを増していきます。こうした熟成による変化こそが、サン・ジュリアンの魅力のひとつです。
一般的に5〜10年で果実味とタンニンのバランスが整い始め、親しみやすさが出てきます。15〜25年ほど経つと円熟期を迎え、力強さとエレガンスが調和した最良の状態を楽しめます。偉大なヴィンテージでは30年以上の熟成に耐えるものもあり、長期熟成を前提としたコレクションワインとしても人気があります。
代表的なシャトー
シャトー・レオヴィル・ラスカーズ/Ch. Leoville Las Cases
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズは、メドックのサン・ジュリアンに位置する1855年格付け第二級の名門シャトーであり、しばしば「スーパーセカンド」の代表格として語られます。畑は約97ヘクタールに及び、その多くが「グラン・クロ」と呼ばれる石垣に囲まれた畑に集中しており、ジロンド河に面した立地は温暖な気候調整をもたらし、ブドウに熟度とフィネスを与えます。平均樹齢は30年以上で、古樹から生まれる果実は凝縮感に富みます。収穫は手作業で区画ごとに行われ、厳密な選果を経てステンレスまたは木製タンクで発酵。熟成はフレンチオーク樽で18〜20か月、新樽比率は約80〜90%と高めに設定されています。ワインは深い色調、カシスやブラックベリーの濃厚な果実味、杉やスパイス、鉱物的なニュアンスを伴い、若いうちは力強く引き締まった印象を与えますが、熟成を経てシルキーで複雑な調和を見せます