ポイヤック/Pauillac

Pauillac

 フランス・ボルドー地方、ジロンド河左岸に位置するメドック地区の中心的アペラシオンです。全体の面積は約1,200ヘクタールと比較的小さいながら、ここから生まれるワインは「ボルドーの王道」と称され、世界の愛好家から絶大な人気を誇ります。

 その象徴的存在が、1855年メドック格付け第1級に輝いた シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite Rothschild)、シャトー・ラトゥール(Château Latour)、シャトー・ムートン・ロートシルト(Château Mouton Rothschild) の3つの“ファースト・グロース”。さらにシャトー・ピション・ロングヴィル(Comtesse & Baron)、シャトー・ポンテ・カネなど、数多くの名門が集中しています。格付けシャトーの数は18と、メドック内で最も多く、名実ともに「左岸ワインの王国」と言えるでしょう。

テロワールは砂利質が主体で、水はけに優れると同時に熱を蓄える性質があり、カベルネ・ソーヴィニヨンにとって理想的な環境です。ブレンドはカベルネ・ソーヴィニヨン主体にメルローを補完し、少量のカベルネ・フランやプティ・ヴェルドが加わります。これにより、ポイヤックのワインは濃厚なカシスやブラックベリーの果実味、強固なタンニン、鉄や鉛筆の芯を思わせるミネラル感を備え、長期熟成によりシガーボックスや杉、スパイス、トリュフといった複雑な熟成香を放ちます。

スタイルとしては、サン・ジュリアンのエレガンスやサン・テステフの頑健さに比べ、力強さと気品の両立が最大の特徴です。若いうちは骨太で重厚ですが、熟成によって気品と調和が際立ち、20年、30年と時を経ても衰えないポテンシャルを持ちます。そのため「メドックの頂点」として世界中のコレクターや投資家からも支持を集めています。

価格帯はシャトーごとに大きな幅がありますが、ポイヤックの格付けシャトーは総じて高値で取引される傾向にあります。それでも、非格付けのシャトーやセカンドワインを選べば、ポイヤック特有の骨格と複雑さをより手頃に体験できる点も魅力です。

ポイヤックはまさにボルドーの真髄。 力強さ、深み、そして優雅さを兼ね備えたワインは、特別な日の一本としても、長期熟成を楽しむコレクションとしても理想的です。

ボルドートップページはこちら

代表的なシャトー

シャトー・ラフィット・ロートシルト/Ch. Lafite Rothschild  

言わずと知れたボルドーの格付け一級、シャトー・ラフィット・ロートシルトは、メドックのポイヤックに位置します。1868年にロスチャイルド家が取得して以来、同家の管理下にあります。ブドウ畑は「シャトー周辺の斜面」「西側のカリュアド台地」「サン=テステフ内の約4.5ha」の三つの主要区画から成り、砂利質中心の土壌が卓越した排水性と熟成向きの骨格を支えます。栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドが補完。グラン・ヴァンは区画ごとに仕込みを分け、選別後にアッサンブラージュし、原則フレンチオークの新樽で長期熟成を施します。樽熟は18〜20か月、新樽比率はきわめて高く、樽は自社の樽工房由来のものも用いられます。スタイルは若いうち緻密で端正、長期熟成でカシスや杉、鉱物的ニュアンスが重層化するクラシックな品格が特徴です。二番目のラベルとしてカリュアド・ド・ラフィット、さらに2018年ヴィンテージから一世紀ぶりの新ラベル「アンセイヤン」も導入され、テロワールの多様性を異なる価格帯で表現しています。いずれも収量・選果・樽使いにおける厳格な管理が品質の核であり、長い熟成曲線と市場での信頼を支えています。

1987 Ch. ラフィット・ロートシルト


シャトー・ムートン・ロートシルト/Ch. Mouton Rothschild

シャトー・ムートン・ロートシルトは、ボルドー・ポイヤックに位置する第一級格付けシャトーであり、1973年に唯一第二級から昇格した歴史を持ちます。畑はムートン高台と呼ばれる砂利質の丘陵に広がり、主にカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを少量補完します。深い砂利と石灰質を含む土壌は排水性に優れ、凝縮感と複雑さを備えたブドウを育みます。ワインは伝統的な木樽で発酵され、新樽比率の高いオーク樽で18〜22か月熟成されることで、果実の力強さと樽由来の芳香が融合します。スタイルは豊かなカシスやブラックベリーの果実、杉やスパイス、熟成でタバコや革のニュアンスが重なる力強さと優美さの調和です。また1945年以降、毎年アーティストによるラベルデザインを採用しており、ピカソやミロらの作品は芸術的価値をも高めています。

1978 シャトー・ムートン・ロートシルト

シャトー・ラトゥール/Ch. Latour

シャトー・ラトゥールは、メドックのポイヤックに位置する1855年格付け第一級シャトーであり、古くから「力と威厳」を象徴する存在として知られています。畑は約96ヘクタールに及び、中心区画「ラ・プロンク(L’Enclos)」の47ヘクタールは平均樹齢60年以上の古樹で構成され、グラン・ヴァン専用に用いられます。砂利質に富む土壌は排水性に優れ、ジロンド河の影響で気候が安定するため、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたブドウが力強さと長期熟成能力を備えます。補完的にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドがブレンドされ、厳格な選果と高い新樽比率による熟成で重厚な構造と複雑さを獲得します。スタイルはブラックカラントや杉のアロマに始まり、熟成でタバコや革、鉱物的ニュアンスを展開し、最良年には数十年、時に一世紀の熟成にも耐えると評されます。