地球温暖化とワイン

生活の中でも身をもって感じる地球温暖化。その影響はワインの世界にも顕著に現れています。2021年のブルゴーニュワインの中にはアルコール度数が16%とこれまでは思いもよらないようなワインも出てくるようになりました。

テロワールによって味わいが大きく変わるワイン造りにおいて地球温暖化の影響は非常に大きいことのです。しかし、地球温暖化の影響はネガティヴなものだけでなく、例えばこれまであまり評価がされてこなかったドイツの「シュペートブルグンダー」は温暖化のおかげで評価が見直され、1970年代には14%しかなかった黒葡萄の国内栽培面積が2021年には32.2%へと増加しています。また、ドイツでは白ワインに関しても完熟が難しいほどの過酷な環境でしたが、今では安定して等級が高いトロッケンベーレンアウスレーゼなども生産しています。しかし、気温の低さで凍結させたブドウから果汁を絞って造るアイスワインに関しては、アイスワインを造るワイナリーは激減しており、ドイツでは温暖化の影響が良くも悪くも顕著に現れています。

 

温暖化に対する対応

温暖化が進んでいる今、従来のままのワイン造りに限界が見え始めています。ボルドーでは従来のスタイルを守るために、逆に新しい取り組みを始めました。それはAOC規定で使用が許可されるブドウ品種の新認可です。2019年に新たに7品種のブドウがAOCボルドーを名乗れるようになりました。

黒ブドウからはトウリガ・ナショナルなど5品種、白ワインからはプティマンサンとアルバリーニョの2品種。どれもボルドーより気温が高い地域で栽培されてきた品種であることがわかります。

品種の他にも、ヨーロッパでは基本的に灌漑が禁止されているため、もともと涼しい高地や渓谷でのぶどう畑の開拓が積極化しています。

ブルゴーニュでは完全除梗を行ってきた作り手も一部全房を入れるなどしてワインの味わいが詰まりすぎないように余裕を持たせようとしています。

 

 メリットを受ける産地

前述のようにワイン造りにおいて温暖化は良くも悪くも影響しています。

その中でも、気温が上がったことにより品質が向上したり、栽培の幅が広がってきている産地もおおくあります。そのなかでも特に温暖化でいい影響を受けている産地をいくつか紹介します。

 ①シャンパーニュ

ワイン造りの北限に近い地にあるシャンパーニュでは、ここ数年多くのメゾンがプレスティージュシャンパーニュを毎年リリースしています。良年のみの特別キュヴェを毎年リリースしていることから気温の上昇が良い影響を与えていることがわかります。

②ドイツ

 前述のようにドイツのワイン造りもおおきく変わりました。従来良質なシュペートブルグンダーの栽培に苦労していたドイツですが、現在は多くの産地で栽培に成功しています。近年ではW.A.でも満点を獲得するほどの優れたシュペートブルグンダーも生み出しています。

 ③ブルゴーニュ

異常気象で被害を受けている産地として真っ先にあげられるブルゴーニュですが、良い影響を受けている村もあります。これまでマイナーアペラシオンと言われていたフィサンやサン・トーバン、コート・シャロネーズ地域などが注目され始めています。以前は完熟させるのが難しい地域や村であったものの現在では「ちょうど良い」気候になりぶどうは健全に実ります。造られるワインも非常にクオリティが高くかつマイナーゆえの価格のため、狙い目となりコアなファンをつけています。

④ロワール渓谷

現在のロワールはかつてのボルドーの気候のようだと言われています。 特にシュナン・ブランの品質向上は注目に値します。より熟度を持ち、よりクリーンにしっかりとした骨格を持つようになりました。早くから丸みを帯び楽しみやすくなったことも温暖化の影響によるところがあると考えられます。

⑤イギリス

多くの地域が、ワイン造りの北限と言われていた北緯49度より北にあるイギリスではこれまでほとんどワイン造りが行われていませんでしたが、2000年中頃からスパークリング を中心に徐々にワイン産業が発達、2010年以降は南部を中心に本格的に拡大しています。現在では日本のワイナリー数を上回り、ガズボーンを始め世界的にも認められる高い品質のスパークリングワインも登場しており今後さらなる期待が集まる注目産地となっています。

冷涼な気候を利用した非常にエレガントな瓶内2次発酵方式のスパークリングはシャンパーニュと比べられることも多く、早くも銘醸地としての地位を確立し始めています。

最後に

異常気象により急激に従来のスタイルが変わりつつある現在、我々消費者側も情報を更新し、流れを捉える必要があるように思います。今回最後にあげた三つの地域の他にも、今から注目しておくべき産地は多くあります。逆に今回あげた産地の全てのワインが品質を向上させたということでもなく、ワインを造るのは最終的には人の手でありますので生産者を見極め、新たな発見を続けていくことが大切だと考えています。