アルノー・ランベール / Arnaud Lambert

Arnaud Lambert
ドメーヌ・アルノー・ランベールの台頭:「ソミュールで最も優れたワイン」
アルノー・ランベール(Arnaud Lambert)は、ソミュール・ロワール地域で近年注目を集める生産者です。彼の父・イヴ・ランベール(Yves Lambert)は、1996年にノルマンディーからワイン造りを志してソミュール界隈に移り、Domaine de Saint-Just を立ち上げました。彼はソミュール近郊の丘陵地に畑を築き、サン・シール・アン・ブール(Saint-Cyr-en-Bourg)などで栽培を開始しました。アルノー自身は2005年に父とともに活動を始め、2009年には Château de Brézé の複数の畑を管理する権利を取得し、その土地を借りて栽培を広げました。同年に全面的な有機転換を始め、2012年に有機認証を取得したとされます。そして2017年には、彼の家族ドメーヌである Saint-Just と、借地であった Brézé の区画を統合し、Domaine Arnaud Lambert の名義で一体化運営を始めました。また、2018年以降はバイオダイナミック農法の導入に着手し、より自然な表現を追求しているという記述も複数見られます。
彼のドメーヌは現在、約 40 ha 程度の畑を所有・賃借しながら運営しており、栽培は主として シュナン・ブラン(Chenin Blanc) と カベルネ・フラン(Cabernet Franc) の2品種に絞られています。この集約は、テロワール表現を鮮明にするための選択ともいえます。
また彼がドメーヌを構えるソミュールは、、ロワール地方の中でも、冷涼性気候と独特の地質条件を備えた地域であり、繊細でエレガントなワイン表現を可能にする土壌と気候が揃っています。中でも「テュフォー(tuffeau)」と呼ばれる軟質石灰岩層は、この地域を語る上で欠かせないキーワードです。テュフォーは多孔質で保水性と排水性のバランスがよく、水分や熱の緩衝力を持つ性質があります。これによって、干ばつ期にはブドウ樹に適度な水分を補い、また過湿期には余分な水はけを確保するという地中での安定性をもたらします。その結果、ブドウがゆっくりと成熟し、酸とミネラルを保ちつつ複雑性を育む余地を得ることができます。
もうひとつ重要なのは石灰質ベースに混じる粘土、砂、シルトなどの混合土壌の存在です。乾きやすい砂や水持ちを助ける粘土とのバランスが変化することで、果実の厚みや張り、酸との調和、ミネラル感の出方などに差異が現れます。つまり「テュフォー単独」ではなく、その上層にある土壌混成体と地形が、ソミュール産ワインの多様性と深みを支える鍵です。こうした地質・気候・地形の条件を背景に、ソミュールのワインは一般に「酸の鮮明さ」「ミネラル感」「軽快さと構成力の両立」などを特徴とすることが多く、加えて適切な醸造アプローチを得ることで、時間をかけて成熟しうるポテンシャルも帯びています。
テロワールを映し出す醸造哲学
ランベールの醸造哲学には、「土壌を隠さず、むしろ際立たせる」「個別区画の個性をきちんと引き出す」という志向があります。彼自身が複数の土壌条件を細かく分析し、同じ畑でも区画ごとの砂・粘土・礫の比率差異を把握し、それぞれに最適な栽培・仕立て・醸造方式を設計するという姿勢が見受けられます。
たとえば、Brézé の丘では、上層に砂・シルト混合土壌があり、その下にトゥフォー(軟質石灰岩)が控え、その中に粘土層が差し込む構造を持つという記述があります。こうした構造が、シュナン・ブランに対しては酸・ミネラル・塩味を与え、カベルネ・フランには張り・骨格を与える土壌的な支えになると考えられています。 また、サン・シール・アン・ブール地区にも粘土質寄りの部分があり、こちらはより厚み・複雑性の方向を支える要素とされます。
醸造においても、ランベールは変化するテロワールを尊重する手法を志向します。醸造設備としては、ステンレス、コンクリート、大小木樽(バリックや古樽、フードルなど)を使い分け、区画・ヴィンテージの特性に応じて器(容器)を変えることで木の影響をコントロールしつつ、土壌由来の個性を妨げないようにします。 発酵は自然酵母を用い、人的な介入を抑えるスタンスが採られ、SO₂(亜硫酸)の添加は非常に抑制的で、瓶詰直前に最小限量のみ用いられるという記述が複数の紹介元にあります。
また、熟成プロセスでは、若木や果実を活かすための比較的ニュートラルな大樽や古樽を主に使い、必要に応じて新樽を限定的に使うというアプローチが採られています。こうすることで、木の風味に頼らずにワインそのもののフィネスと構造を維持しようとする意図が見て取れます。
ロワールの新鋭
ランベールは、伝統派が多いロワールの中で、比較的若手かつ革新的な生産者と見なされる存在ですが、その姿勢と品質により急速に存在感を高めています。Vinica、Vintage & Vine、Élevage Selections など複数のワイン紹介サイトは、彼を「サミュールで最も注目すべき造り手」「サミュールのシュナン・ブラン界の旗手」などと位置づけています
特に Brézé 地区は、過去には「優れた白ワイン産地」としての歴史を持ち、かつてはサヴニエールやシャトー・ディケムと交換されるなどその名声を誇った地域と言われます。しかし、長年その栽培力・存在感は弱まり、協同組合や大規模拡張型の生産が主流となっていました。こうしたなか、ランベールはその “失われた個性” を掘り起こしながら、個別区画主義(“クロ” 区画主義)と自然的アプローチを組み合わせて、Brézé を再び注目地域として復権させつつあります
また、ロワール地域外からも彼のワインは国際的なワイン商ルートに導入され、自然派ワイン市場においても一定の支持を得ています。特に白ワイン(シュナン・ブラン系)の表現性が評価され、ワイン愛好家や評論家から「ロワールの新鋭」「透明性と力強さを共存させたクールなスタイル」などの称賛を受けることが増えています。
アルノー・ランベールの代表キュヴェ
2022 ソミュール サン・シール・アン・ブール ペリエール / アルノー・ランベール
2023 ソーミュール ブレゼ マズリック / アルノー・ランベール
アルノー・ランベールおすすめ商品のラインナップは下記からご覧いただけます。