セバスチャン・フェザス / Sebastien Fezas

Sebastien Fezas
セバスチャン・フェザス(Sébastien Fezas)は、フランス南西部ジェール県クーレンサンに居を構える家族経営のドメーヌ、ジャンドージュ(Domaine Jeandaugé/表記ゆれでJean Daugéとも)を受け継いだ新世代の造り手です。古くからアルマニャック(とりわけバ・アルマニャック)と日常消費のワインづくりで知られてきた土地柄にあって、彼は有機栽培と生物多様性の回復、さらには自然酵母による醸造と極力低介入のワインメイキングへ舵を切り、ガスコーニュの素朴な風土に現代的な感性を重ね合わせることで、瑞々しくも芯の通ったワイン像を提示しています。家業としての畑は世代をまたいで受け継がれてきましたが、フェザスがドメーヌを継承して以降は、除草剤の廃止、緑肥や被覆作物の導入、畜産や古代穀物といった複合的な農の営み(アグロフォレストリー的発想)を段階的に取り入れ、土壌環境とブドウの健全性を時間をかけて再構築してきました。結果として、これまで蒸留やネゴシアン向けに流通していたブドウの一部を自社でナチュラルワインとして仕立て、地場品種の魅力を素直に引き出すキュヴェを少量生産しています。コロンバールやユニ・ブランといった白品種、タナやシラーといった赤品種を中心に、グロ・マンサンやシャルドネなども手掛け、南西地方らしい張りと香味の広がりを両立させる味わいが特徴です。ドメーヌとしての畑の保有は家族代々のスケールを背景にしながらも、フェザス自身が「自らの名」で醸す区画は慎ましく、畑ごと・年ごとの表情を尊重した少量仕込みに徹しているのが彼の流儀といえます。
フェザスの拠点クーレンサンは、ガスコーニュの穏やかな丘陵が連なる内陸部に位置し、アルマニャックの主要生産地として知られるバ・アルマニャックのゾーンにも接しています。土壌はおおむね石灰質や粘土石灰を基調としながら、砂質や小石混じりの区画も点在し、区画によって保水性・排水性が大きく異なるモザイク的なテロワールを成しています。こうした地勢は、冷涼さと温暖さの緩やかな振幅をもたらし、成熟度と酸のバランスに優れたブドウを実らせます。白ではコロンバールやユニ・ブラン、グロ・マンサンなど南西地方固有の品種が主役で、柑橘と白い花、ハーブが織りなすアロマと、はっきりとした酸、塩味のニュアンスが骨格を形づくります。赤ではシラーやタナが中心で、黒系果実やスパイス、わずかな野性味と緊張感のあるタンニンが輪郭を与えます。フェザスは、この「多様性」こそが土地の個性であると理解し、畑を細かく見極め、区画ごとの収穫・醸造・熟成を丁寧に組み立てることで、ブレンドであっても単一区画的なニュアンスを損なわないバランスを探ります。もともとガスコーニュでは、大手向けの原料供給や蒸留用の生産が経済を支えてきましたが、フェザスは家業の大きさをもって「たくさん造る」方向に進まず、あえて手の届く範囲で「自分の感性で造り切る」スケールに落とし込むことで、テロワールの声が過度な補正や化粧に隠れないスタイルを志向しています。数値的な面積や区画構成も、彼が重ねてきた土壌回復・緑化・休ませる工程に応じて柔軟に見直しており、短期の生産量拡大よりも、長期的な土壌の健全性と樹勢の安定を優先する設計思想が一貫しています。
継承当初に残っていた除草剤や慣行的な畑管理は段階的に撤廃し、被覆作物の常態化、羊の放牧による下草管理、圃場内で賄う有機質肥料の活用など、農法を大きく切り替えました。有機転換を明確に進めると同時に、圃場に多様な生物相を呼び戻すことで、ブドウ自体の健全性を高め、醸造段階での「足し算」を極力必要としないブドウ栽培を目指しています。醸造では、自然酵母(畑や醸造所に居つく自生酵母)による発酵を基本とし、ステンレスタンクやコンクリート、(キュヴェによっては)木樽など複数の器を使い分けながら、果実の質感と輪郭を損なわない温度管理と澱との対話を続けます。補酸・補糖・清澄・濾過は必要最小限にとどめ、キュヴェによっては無清澄・無濾過、酸化防止剤(亜硫酸塩)もゼロまたは極少量という設計を採ります。もっとも、いわゆる「ナチュラルであれば良い」という倒錯には陥らず、揮発酸や還元、過度な酸化香といった欠点が前に出ないよう、仕込みや熟成の微調整を重ねるのがフェザスの慎重なところです。たとえば白の「Partie Fine」ではコロンバールとユニ・ブランを主体に、爽やかな柑橘のタッチと仄かなレモングラス、果皮由来の微細な苦味を調和させ、口中では塩味が骨格を支えるように設計されています。シャルドネ単独の「La Voile」では、品種のふくらみを活かしつつ、過度な樽や酸化のニュアンスに寄りかからない、内陸ガスコーニュらしい明度の高い表現が追求されています。赤のキュヴェでは、タナやシラーの骨太さを生かしつつも、アルコール感や抽出を必要以上に強調せず、果実とスパイスと張りのある酸を軸に、肉料理や炭火との相性を高めるスタイルに仕上げます。ゼロ/極少SO₂設計のキュヴェも含むため、液体は活き活きとしており、抜栓後の変化も魅力のひとつです。ワインは南西らしい素朴さと現代的な清潔感が両立し、飲み心地の良さと地域性の発露が同居しています。地場の同業者や近隣産地の生産者との交流も積極的に行い、ジュランソンの造り手がフェザスの果実を用いたネゴス・キュヴェを仕立てるといった相互作用も芽生えており、ガスコーニュの可能性を広域的なネットワークの中で捉え直す動きにも資しています。総じてフェザスのワインは、ガスコーニュの空気感—明るさ、風の抜け、香草の清涼感—を素直に帯びながら、土壌と果実の「素」の表情を曖昧にしない、謙虚で端正な佇まいが魅力です。大量生産の対極にある少量仕込みゆえ市場露出は限定的ですが、ナチュラルワインの文脈においても、南西地方の文脈においても、いま注目すべき小さな光点のひとつだといえるでしょう。
セバスチャン・フェザスの代表キュヴェ
2023 マレ・オート / セバスチャン・フェザス
2022 パルティ・フィーヌ / セバスチャン・フェザス
2020 ラ・ヴォワル / セバスチャン・フェザス
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