シャトー・ラトゥール / Chateau Latour

シャトー・ラトゥール-Wine Library

Chateau Latour

磐石たる王者、ポイヤックの黄金塔

 ジロンド河の潮風を受け、ポイヤック(Pauillac)村の南東端にその威厳を構えるシャトー・ラトゥールは、1855年の格付けで第一級(Premier Cru Classé)に名を連ねた、五大特級シャトーの一角にふさわしい存在です。その名は「塔(La Tour)」に由来し、14世紀にこの地に築かれた防衛塔を起源と伝えられています。以降、数世代にわたり土地の所有者と共にぶどう栽培とワイン造りを重ね、現在もなお「ラトゥールらしさ」の核心を守り続けています。このシャトーのワインが語るのは、揺るぎない構造、重厚な骨格、磨き抜かれた果実、そして長い余韻――それらはすべて、ラトゥールの畑・醸造哲学・選択と時間の結晶です。

ラトゥールの記録は 1331年、カスティヨン伯領によるサン=モーベル村の塔(La Tour de Saint-Lambert)建造許可に始まるとされ、守備拠点としての塔が後に名の起源となりました。14世紀以降、ぶどう畑はこの地域に定着し、17世紀にはムレ家・ド・セギュール家らによる所有・統合を経て、ラトゥールはぶどう・ワインの文脈でその地位を確立してゆきます。18世紀には、ラフィットなどとともにド・セギュール家が支配を強め、モントラック、モートン、カロン=セギュールを含む複数格付けシャトーを傘下に収めました。

 1855年の格付けでは、ラトゥールは四つの第一級シャトーのひとつに選ばれ、その名声は国際的に確立されました。20世紀後半には、1963年に従来の所有体制から大株主制へ移行。ハーヴィーズ(Harveys)やピーターソングループの資本参加、醸造・設備の近代化が進められました1989年にはアリード・ライオンズ(Allied Lyons)に売却され、1993年にはフランソワ・ピノー所有のアルテミス・グループに帰属。以来、ラトゥールはさらなる再編と品質強化を遂げています。

 近年、ラトゥールは若いうちからのエノロジカル改良(亜硫酸の見直し、区画別醸造、ステンレスタンク導入など)を進めつつも、伝統の強さを失わぬ方向性を模索しています。

テロワールと精緻なる調和の追求

 ラトゥールのぶどう畑の総面積は約 78ヘクタール(または近傍で 90 ha とする記述もあり)とされ、そのうち 47ヘクタール を囲う中心区画「l’Enclos(ランクロ)」がグラン・ヴァン用に確保されています。このランクロは勾配のある丘の尾根に位置し、両側を小川に囲まれ、東側は湿地帯(Palus)に面しています。高低差・排水性・日照条件に優れた区画です。土壌は深い砂利層と粘土と石灰の層が混在し、その多様性がぶどうに複雑性とミネラル感をもたらします。ランクロ内部でも微区画ごとに土質が変化し、その差異が年による表情変化を刻みます。

 ぶどう品種比率は、おおよそ カベルネ・ソーヴィニヨン 80%、メルロ 18%、カベルネ・フランおよびプティ・ヴェルド 2% という構成が一般的です。ただし、グラン・ヴァン「Château Latour」は長く「ヴィエイユ・ヴィーニュ(古樹、平均樹齢 60年)」のぶどうのみを用いることを公言しており、重視される区画は Gravettes、Sarmentier、Pièce de Château などと名付けられています。

このような厳選された区画とぶどう比率によって、ラトゥールはぶれないスタイルを維持できる基盤を得ています。

 ラトゥールのワインは、若いうちは構造的で堅牢、やや閉じた印象を持つことがありますが、時間とともにその輪郭は柔らかさを帯び、深い魅力を開いてゆきます。香りにはカシス、ブラックベリー、リコリス、シダー、タバコ、土、鉛筆芯などが層となって浮かび上がります。熟成するとトリュフ、森の下草、スモーク、湿った葉のニュアンスが加わり、変化の幅は極めて広いです。

 口中では、力強さと緻密さ、果実の濃厚さとミネラルの鋭さが共存します。タンニンはしなやかでありながら十分な厚みを持ち、酸味とミネラルによってバランスが保たれています。余韻は長く、しばしば 20〜30 年以上にわたりその生命感を維持する実力があります。

 セカンド・ワイン Les Forts de Latour は、若樹・補助区画由来のぶどうを使い、より早く楽しめるスタイルとして提供されます。一方、1989 年からは Pauillac de Latour(ラトゥール・ド・ポイヤック) というサード・ラベルも導入され、若いヴィンテージや補助区画のぶどうの活用が進められています。