シャトー・ラフィット・ロートシルト/Château Lafite Rothschild

Château Lafite Rothschild
卓越なる第一級の象徴
ボルドー地方メドック地区ポイヤック村。その名を聞けば、多くのワイン愛好家が思い浮かべるのは一つ――シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite Rothschild)。このシャトーは、1855年の格付けで第一級(Premier Cru Classé)に名を連ねて以来、世界の高級赤ワインを語る上で欠かせない存在となりました。「ラフィットは、最も偉大なる第一級」とも称され、香りの優雅さ、構成の緻密さ、そして長期熟成能力の高さで知られています。
ラフィットの歴史は古く、文献上では 1234年に「Gombaud de Lafite」という名が記されており、長い年月をかけて今日の格式を築いてきました。17世紀にはジャック・ド・セギュールが本格的に畑を拡張し、「ラフィット」をワインの名声として確立させたとされます。その後、1868年、バロン・ジェームズ・ド・ロスチャイルド がオークションでこのシャトーを購入し、以降ロスチャイルド家による経営が始まりました。長い年月の中で幾度の危機もありましたが、ロスチャイルド家は伝統と革新を併せ持ちながら、ラフィットを世界最高峰のシャトーの一つとして守り続けてきました。近年では、2018年にサスキア・ド・ロスチャイルドが当主に就任し、次世代経営の切り札としてラフィットの未来を託されています。
シャトー・ラフィットは、ポイヤック村中心部およびその周辺に広がる畑を所有しており、総栽培面積はおおよそ 100 〜 110 ヘクタールとされます。土壌は砂利(グラーヴ土壌)が主体で、地下の石灰層と礫層が根を深く伸ばす環境を提供し、排水性と熱蓄積性に優れています。主要なブドウ比率としては、カベルネ・ソーヴィニヨンを主軸とし、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなどを補助品種に用います。典型的なアッサンブラージュ(ブレンド比率)は、ヴィンテージにより変動しますが、カベルネ・ソーヴィニヨンが 80~95%、メルロが 5〜20%、カベルネ・フランおよびプティ・ヴェルドをごくわずかに含む構成が多くみられます。また、ラフィットは近年サステナブル栽培・環境配慮の取り組みを強化しています。
洗練された最新技術と伝統の融合
ラフィット・ロートシルトの醸造は、伝統技法と最新技術のバランスで進められています。ブドウは畑から区画別に収穫され、選果後に果汁とスキンの接触が慎重に制御されます。発酵は温度管理付きステンレスタンクやオープン発酵槽を使用することもあります。熟成には新樽(フレンチオーク)をかなりの比率で使用し、18~20か月程度を一般としています。その結果、ワインには樽由来のヴァニラ香やロースト香、スモーキーさと、果実の純度・構造美を併せ持つ複雑な表現力が与えられています。セカンドワインとしては Carruades de Lafite(カリュアド・ド・ラフィット)が知られており、若木や補助区画のブドウを使ってより早飲み可能なスタイルを目指しています。
ラフィット・ロートシルトのワインは、余裕と洗練を感じさせるスタイルが持ち味です。ブラックカラント、ブラックベリー、プラムといった黒系果実に、シダー、タバコ、タール、鉛筆芯や鉄分を思わせるミネラル、トースト香・カカオなどのニュアンスが重なります。若いうちはしっかりしたタンニンと酸を伴いますが、10年、20年、さらには30年以上の熟成を経ると、その輪郭は円熟し、甘草、皮革、松葉、トリュフの香りへと展開します。非常に長命な銘柄として知られており、優良年では半世紀以上の熟成力を示すこともあります。