デュラタス /Deauratus

デュラタス/石窪俊星/エリック・バウアー-Wine Library

Deauratus

黄金の名を冠する新星 

 1976年、フランスとカリフォルニアの威信をかけて行われた伝説のブラインド・テイスティング「ジャッジメント・オブ・パリ」。当時の常識を覆す結果をもたらしたのが、リッジ・ヴィンヤーズ・モンテベロをはじめとするカリフォルニア勢でした。なかでもリッジのワインはその後の再戦(リマッチ)で第1位に輝き、世界に“New California”の実力を示しました。そのリッジで長年醸造を担ってきたベテラン醸造家二人が、いま再び黄金の挑戦を始めています。ワイナリープロジェクト「Deauratus(デュラタス)」は、リッジで35年以上のキャリアを積んだエリック・バウアー(Eric Baugher)と、同じくリッジで栽培・醸造の双方を経験した石窪俊星(Shun Ishikubo)によって設立された新しいブランドです。その名「Deauratus」はラテン語で「黄金に輝く」「金色に染められた」を意味し、二人の情熱と理想を象徴しています。

一流ワイナリー リッジ出身の二人の醸造家タッグが満を持して初リリース

石窪俊星氏は芋焼酎吉兆宝山などで知られる、鹿児島県にある焼酎蔵、西酒造でセラーハンド(醸造補助)としてキャリアをスタートさせ、西酒造を退社後、カリフォルニア大学デーヴィス校に留学、その後、2008年に下記のエリックと共にリッジ・ヴィンヤーズで働き始め13VTに携わりました。

Eric Baugher氏は生化学および分子生物学を学んだ後、リッジで27VTにわたってワイン造りに携わりました。一時期のリッジで品質が安定しない年が続いていたころ、彼の分析力により良いとされるワインの再現性を高め、2000年代のリッジの黄金期を支えました。

2人は共に、リッジの歴史の中でも最高峰とされるワインをいくつも手掛け、複数回にわたり100点満点の評価を獲得しています。

 この輝かしい経歴を持つ二人がタッグを組み注目のワイナリーを立ち上げました。拠点を置くのは、サンタ・クララ・ヴァレー(Santa Clara Valley)。サンフランシスコ南東に広がるこの土地は、19世紀末からブドウ栽培が行われてきた歴史を持ちながら、近年ではシリコンバレーの開発で多くの畑が失われつつある地域です。バウガーと石窪はこの地を再び「ワインの黄金郷」としてよみがえらせることを目標に掲げ、2023年に初ヴィンテージをリリースしました。

リッジの遺伝子を受け継ぐ、緻密で自然なアプローチ

 Deauratus の哲学は、リッジ・ヴィンヤーズで培われたクラシックな職人技と、現代的なミニマル・インターベンションの融合にあります。二人はリッジで得た経験をそのまま再現するのではなく、あくまでその精神を継承しながら、より自由で土地に忠実な醸造を志向しています。

 使用されるブドウは、カリフォルニア各地の優れた栽培家が手掛ける区画から調達され、すべてがシングル・ヴィンヤードとして瓶詰めされます。現在確認されている畑には、サンタ・ルシア・ハイランズのGali Vineyard(シャルドネ)、モントレー・ハイランズのMichaud Vineyard(グルナッシュ・ブラン)、ソノマのTzabaco Rancho(ジンファンデル)などが含まれています。いずれも土地の個性が明瞭な小規模区画で、醸造家が直接畑を訪れ、収穫タイミングの決定や選果に深く関与しています。ブドウ栽培には化学的介入を極力抑えた方法を採り、果実の健全性と完熟度を両立させることを最優先としています。収穫はすべて手作業で行われ、畑ごと・ロットごとに小仕込みで醸造されます。発酵には自然酵母を用いるケースが多く、温度管理を慎重に行いながら、果皮からの穏やかな抽出を重視します。バウガーが語るように、「最良のワインは“押し出す”のではなく、自然に“現れる”もの」という信念がその根底にあります。熟成にはフランス産オーク樽とニュートラル樽(数年使用した古樽)を併用し、新樽比率はキュヴェごとに異なります。いずれも木の香りを前面に出すのではなく、ワインの質感を整え、酸とミネラル、果実味の統合を促すための“容れ物”として樽を扱います。瓶詰め前の清澄や濾過は最低限に抑えられ、すべての工程で「介入の少ない正確な手仕事」が徹底されています。

 2023年の初リリースでは、シャルドネ、グルナッシュ・ブラン、ジンファンデル、カベルネ・ソーヴィニヨンといった品種がラインナップしました。どのワインにも共通するのは、透明感のある果実味と清潔な造り、そして土地由来のミネラル感の明瞭さです。とりわけ「Michaud Vineyard Grenache Blanc 2023」は、白い花や洋梨の香りに微かなアーモンドや塩気を帯びた余韻を伴い、酸のキレと口当たりの厚みの両立が印象的です。

 また、エリック・バウガーは今後、サンタクララヴァレーに新たな自社畑を設け、栽培から醸造まで一貫した小規模生産体制を整える構想を明らかにしています。これにより、ネゴシアン型の柔軟性とエステート型の一貫性を両立させる「ハイブリッド生産者」としての発展が期待されています。