デュジャック / Dujac

Dujac
モレ・サン・ドニの雄
デュジャック(Domaine Dujac)は、フランス・ブルゴーニュ地方、コート・ド・ニュイの村モレ=サン=ドニ(Morey-Saint-Denis)を拠点とする著名なドメーヌであり、高品質ピノ・ノワール(および一部白ワイン)を生み出すことで国際的評価を得ています。現在はセイセス(Seysses)家族が運営を続けており、そのワイン造りには伝統と革新、テロワールへの敬意と現代的なヴィニフィケーションが融合しています。
デュジャックの起源は1967年から1968年にかけてさかのぼります。創設者であるジャック・セイセス(Jacques Seysses)は、ビスケット製造業を営む裕福な家庭に育ちましたが、若いころからワインへの関心を持ち、ヴォルネイの著名な蔵元「ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドール(Domaine de la Pousse d’Or)」で醸造技術を学んだ経験を持ちます。最初にドメーヌ・マルセル・グレイエ(Domaine Marcel Graillet:モレ=サン=ドニ村内にあった小規模なドメーヌ)を買収し、それを基盤に整備を始め、1968年には初ヴィンテージとしてワインを生産しました。ドメーヌ名「Dujac」は「du Jacques(ジャックのもの)」という言葉を縮めた造語とされます。最初のヴィンテージは1968年ですが、当時は設備も流通基盤も整っておらず、グレイエ時代のワイン同様にネゴシアン(仲買業者)へ多くを卸す形でした。しかし、1969年のヴィンテージで品質が認められ始め、徐々にレストランや輸入業者を通じて市場に出回るようになりました。ジャック・セイセスは、父の人脈を通じてレストラン等ルートを確保し、ドメーヌの認知を拡げる戦略を取ったとされます。
創設後、デュジャックはドメーヌ拡大とともにワイン造りの方針も進化を遂げてきました。創業当初は、全量ステム(房梗、=果梗を除かず発酵時に共に扱う手法)含み、すべて新樽(フレンチオーク)を使うという強いスタイルを採っていました。これは、果実だけでなく梗由来のスパイス感や構造をワインに与えるという信念に基づくものであり、当時としては挑戦的なアプローチでした。しかし、1999年を節目として、第二世代へと経営と醸造の権が移譲される中で、ヴィニフィケーションの一部に調整が加えられました。たとえば、ステム含率(ステムをどの程度含めるか)はヴィンテージや区画の状態に応じて可変とし、果実だけを使う比率を高める場合もあるようになりました。また、樽の新樽比率についても、グラン・クリュでは100%新樽、プルミエ・クリュでは60~80%新樽、村名・村級では40%前後という使い分けを取り入れています。
ドメーヌの畑規模は創設時の約5ヘクタール弱から、徐々に拡張を続け、現在では15ヘクタール以上にまで至っています。典拠2014年にはブルゴーニュのコート・ド・ボーヌ側(ピュリニー・モンラシェ村)の1級畑「フォラティエール(Folatières)」および「コンベット(Combettes)」に賃借畑を加えるなどして、多様な村や格付け畑を所有または管理するようになりました。
ワイン造りにおいて、「優れたワインはぶどう畑で決まる」という信念のもと、デュジャックはブドウ栽培への注力を徹底しています。2001年からオーガニック農法への転換を始め、段階的に対象面積を広げ、2008年には畑全体を有機栽培に移行したと公式に表明しています。2011年には正式な有機認証を取得しました。また、ビオディナミ(バイオダイナミック農法)的な手法を補助的に取り入れており、土壌の微生物バランスや生態系の維持、畑間植生や樹間の草生管理、自然な覆土、除草剤不使用といった取り組みを行っています。ただし、同家はバイオディナミを「魔術的儀式」そのものとして全面に押し出すわけではなく、実効的な農業ツールの一つと位置づけ、「最終的には土壌と畑自体が語るもの」とする姿勢をとっています。
畑作業はできる限り機械化より手作業を優先し、土壌を鋤(すき)で耕す、除草剤を使わない、コンポストを使って微生物の活性を支えるといった手法が採られています。剪定法は区画・樹齢・樹勢に応じて、コルドン・ド・ロワ(Cordon de Royat)やギヨ・プサール(Gouyot-Poussard)など異なる方式を使い分けています。ブドウの収穫時には、ヴィンテージやぶどうの成熟状態、天候条件を慎重に見極めながら収穫日の設定を行います。収量制限も厳格で、一般的に35ヘクトリットル/ヘクタール程度を目安とし、極端な収穫過多を避けて品質確保に努めています。
デュジャックにはネゴシアン事業も併設されており、「Maison Dujac Fils et Père」という部門を通じて、他の生産者や外部畑から買いブドウあるいは買いワインを自ドメーヌに適した処理で処理し、比較的入手しやすいラインを提供するケースがあります。
デュジャックのワインはそのスタイルにおいて、バランスとエレガンス、力強さと繊細さの調和をめざすものと評価されています。高いステム比率がもたらすスパイス感や、区画特性をよく反映する磨かれたミネラル感、十分な酸を備えた骨格と余韻の長さなどが、ワイン愛好家や評論家から高く評価されてきました。ある試飲記録では、デュジャックの「クロ・ド・ラ・ロッシュ」が他の蔵元との比較テイスティングにおいて際立った存在となったという報告もあり、ドメーヌの実力を物語るエピソードの一つとされています。
国際的な評価も高く、ワイン評論家や専門誌から「ブルゴーニュの最上ドメーヌの一つ」「非常にエレガントかつ複雑なスタイル」などの称賛を受けています。TastingBookなどの情報では、「デュジャックはコート・ドールの中でも最も洗練され、風味豊かでエレガントなドメーヌの一つ」と評価されているという記述があります。



