バンジャマン・ルルー / Benjamin Leroux
Benjamin Leroux
ブルゴーニュ新時代の旗手
バンジャマン・ルルーは、いまやブルゴーニュを語るうえで外せない現代的ネゴシアンの代表格です。ボーヌに本拠を置き、コート・ドールの各地で育つピノ・ノワールとシャルドネを、村名から特級畑に至るまで多彩に手がけます。若くして頭角を現した彼は、ポマールの歴史的生産者 Comte Armand で24歳にして醸造責任者を任され、15年にわたりドメーヌの名声を押し上げました。その一方で2007年に自身のメゾン「Benjamin Leroux」を立ち上げ、2014年にはコント・アルマンを離れて自らのプロジェクトに専念します。ヴィニュロンとしての訓練を十代半ばから受け、海外各地での研鑽も積んだうえで、彼は「マイクロ・ネゴシアン」という柔軟な形式を選びました。自社畑だけに縛られず、テロワールの可能性を最大化するために最良の栽培家と組み、畑ごと・年ごとに最適解を積み上げるという姿勢は、ブルゴーニュの古典と現代を自然につなぎます。
メゾンの拠点はボーヌ中心部の歴史あるセラーで、19世紀末に建てられた施設を改修し、ステンレスタンクやバスケットプレス、清潔に保たれた樽貯蔵庫を備えます。彼がこの形を選んだのは、地価高騰で畑の取得が難しい現代ブルゴーニュにおいても、理想の区画を厳選して醸す自由を手にするためでした。たとえばシャンボール・ミュジニーの高標高区画からは冷涼感と赤果実の透明な輪郭を、ムルソーやピュリニー・モンラッシェでは石灰質がもたらす張りとテクスチャーを、ヴォルネーやポマールでは骨格とスパイスの陰影を、それぞれ年ごとに精緻に表現します。供給元の栽培家にはオーガニックやビオディナミ志向の生産者が多く、健全で完熟した果実を前提にするため、買いブドウであっても栽培から収穫期の対話まで踏み込みます。栽培畑の一部には自社所有区画も含まれ、たとえばブルゴーニュ・ブランやアリゴテではムルソー周辺の古木が重要な役割を果たします。いずれにせよ、ブドウの質の確保こそがメゾンの命であるという哲学にブレはありません。
余白まで設計されたミニマリズム――醸造と熟成の美学
ルルーのワインを口にしたとき、多くの愛好家が第一に感じるのは「過不足のなさ」です。赤では梗の扱いをヴィンテージと畑の個性に応じて調節し、抽出は「インフュージョン」を意識したやわらかなアプローチを基調とします。過度なパンチダウンや長時間の高温醸しを避け、ピノ・ノワールがもつ芯の張りとアロマティックな立ち上がりを、微細なタンニンとともに整えます。白では健全な果実を全房でプレスし、一次発酵から熟成まで古樽主体に委ねつつ、新樽の比率は控えめにとどめます。目的はオークの香りを付与することではなく、ワインの立体感をやわらかく支えるテクスチャーの獲得です。いずれも澱との時間を丁寧に使い、清澄・ろ過は必要最小限。硫黄の使用も「安定と表現の釣り合い」を見極めて決められます。
この徹底したミニマリズムは、決して主張の薄さに直結しません。むしろ、ムルソーやピュリニーの白では檜扇のように繊維が重なった白い果肉感と塩味の余韻が長く伸び、シャンボールやヴォルネイの赤ではスミレやラズベリー、時にブラックペッパーのニュアンスが、冷ややかなミネラルとともに縦方向に伸びます。若いうちは緊張感が前に出るスタイルですが、ボトルで数年経つと輪郭がほどけ、香りの層と口中のシルキーさが自然に統合します。コート・ド・ニュイの村名赤は5〜10年、コート・ド・ボーヌの村名白は2〜7年あたりが一つの目安で、1級畑以上や特級由来のキュヴェでは10年超の熟成で真価が開くことも珍しくありません。評論家筋の試飲でも、赤白ともに同等の完成度を示すメゾンとして位置づけられており、「赤も白も“ほぼ同量・同格”でトップレンジを揃える希有な存在」と評されるのは、彼の設計思想が色を問わず一貫していることの証左です。
供給畑の広がりは、メゾンの最大の魅力のひとつです。ムルソーの古木区画に根ざしたブルゴーニュ・ブランは、入門にふさわしい緊張と果実の厚みを両立させ、アリゴテは黄金系クローン(ドレ)由来の風味がもたらす旨味と塩気でテーブルに映えます。シャンボール=ミュジニーでは高標高・薄土のリュー=ディ由来の繊細さが、ヴォルネイではフィネスとストラクチャーの均衡が、ポマールでは土とスパイス、鉄分を帯びた骨格が、それぞれに“らしさ”を語ります。年ごとの気候特性に合わせて除梗率・抽出・樽の選択を微調整することで、銘柄間に流れるルルーらしい透明感を保ちつつ、テロワールの声色の差異をきちんと残す――この「共通言語と方言の両立」が、彼のボトルを飲み手の記憶に留めるのです。
バンジャマン・ルルーの代表キュヴェ
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