ドメーヌ・ラジィル / Domaine Lagille


ドメーヌ・ラジィル - Wine Library

Domaine Lagille

ピノ・ムニエが語る「静謐なシャンパーニュ」

 モンターニュ・ド・ランスの西端、ヴァレ・ド・ラルド(Vallée de l’Ardre)の小村トレロン(Treslon)に、家族経営の小さなシャンパーニュ・メゾンがあります。ドメーヌ・ラジィル(Domaine Lagille)。この名を聞き覚えたワイン愛好家はまだ多くはないでしょう。しかし、ピノ・ムニエというブドウ品種の真価を、これほどまでに純粋かつ精緻に映し出す生産者は、現代のシャンパーニュ界でも稀有な存在です。静かな村で二百年以上続く家族の物語は、今や新世代によって再び輝きを放ちつつあります。

 ドメーヌ・ラジィルの歴史は1818年に遡ります。トレロン村の地でラジィル家が葡萄栽培を始めたのが起点であり、以来、7世代にわたって家族経営を貫いてきました。今日、ドメーヌを率いるのはヴァンサン・ラジィル(Vincent Lagille)とその家族です。彼は2012年に家業を正式に引き継ぎ、従来の協同組合向けブドウ供給を縮小し、ドメーヌ自家醸造によるグロワー・シャンパーニュとしての方向性を確立しました。トレロン村はランスから西へ約20km、森と丘陵に囲まれた穏やかな土地です。ドメーヌが所有する畑は約7.2ヘクタールに及び、その95%がトレロン村内に集中しています。残りは隣接するヴリニー(Vrigny)村などに位置し、いずれも標高が高く冷涼な風が流れる区画です。土壌は石灰と粘土を主体とするシャンパーニュらしい構成で、これがピノ・ムニエに柔らかさと同時に芯のあるミネラルを与えています。

 栽培比率はピノ・ムニエ55%、シャルドネ30%、ピノ・ノワール15%。シャンパーニュ地方ではピノ・ノワールやシャルドネが主流ですが、ラジィルはムニエを“土地の声を伝える媒体”と考え、その表現を主軸に据えています。彼らの哲学は明快です。「自然に語らせること」。この姿勢は畑からセラーの奥に至るまで、一貫して貫かれています。

 自然を信頼し、介入を最小限にしたピュアな表現

 ヴァンサン・ラジィルの哲学は “Let nature express itself” ― 「自然が語るままに」 という言葉に集約されます。彼はオーガニックおよびビオディナミの理念に基づき、化学肥料や除草剤を使用せず、土壌の呼吸と生命を尊重します。近年では有機転換を進め、2020年代初頭には有機認証の取得を視野に入れています。

 畑仕事は天体のカレンダーに従い、月の満ち欠けに応じて剪定や耕作、収穫を行います。土壌を頻繁に耕し、「土は生きており、呼吸を必要としている」という信念のもと、冬の間も鍬を入れることを欠かしません。これは、根がより深く地中に伸び、ミネラルを吸い上げることを促すためです。収穫のタイミングにも強いこだわりがあります。ムルソーの生産者ベルナール=ボナンの哲学に通じるように、ヴァンサンも「酸はワインの魂である」と考えています。トレロンのように粘土質の多い土地では、ブドウが熟しすぎると酸が失われがちになります。彼はその瞬間を見極め、村でも最も早い収穫を行うことで、果実に自然なフレッシュさと緊張感を保たせます。

 醸造では、圧搾後の果汁を区画ごとに分けて仕込みます。発酵は主にステンレスタンクで行われ、一部のキュヴェでは古樽を併用。清澄や濾過は行わず、自然な沈殿とおり引きのみでワインを安定化させます。マロラクティック発酵の有無もワインごとに異なり、テロワールの表情を最も明確に引き出す方向を選びます。瓶詰めの時期は月のカレンダーに従って決定され、自然のリズムを最後まで尊重します。

 熟成期間は平均で3〜5年、最上級キュヴェではそれ以上に及ぶこともあります。澱との長期接触によって複雑味とテクスチャーが増し、ムニエ特有の柔らかさと骨格が両立します。ドザージュ(補糖)は極めて控えめで、時にゼロ・ドザージュのブリュット・ナチュールとしてリリースされることもあります。ヴァンサンは「砂糖でバランスを取るのではなく、果実そのものに調和を見出すべきだ」と語ります。

ドメーヌ・ラジィルの代表キュヴェ

2020 ブリュット・ナチュール ラ・ガレンヌ /  ドメーヌ・ラジィル

2020 エクストラ・ブリュット ル・モン・オン・ペンヌ /  ドメーヌ・ラジィル


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