アドリアン・ブリソー / Hadrien Brissaud
Hadrien Brissaud
彼の最初のキャリアは、アートとワインを対象にした保険の分野だった。パリで共同設立した専門ブローカー Appia Art & Assurance では、美術館やギャラリーだけでなく、個人コレクターのワインセラーや貴重なヴィンテ ージボトルのリスク管理にも携わった。高額なボトル1本1本の来歴や状態、価値変動を精緻に評価するその仕事の中で、その背後にある土地・人・時間の物語に強く惹かれていくようになる。ワインに心を奪われたアドリアンが新たな旅路の拠点に選んだのはブルゴーニュだった。「ブルゴーニュを選ぶことは必然だったと思う。僕の家族はもともと、祖父の代までラドワ・セリニーでドメーヌを運営していた。家族のルーツがあるこの場所でワイン造りに挑戦したいと思ったんだ。」アドリアンは2018年にブルゴーニュへと移住しボーヌの栽培・醸造学校 CEPPA で学び、その後、ラドワのドメーヌ・シュヴァリエで2年間ワイン造りを学んだ。2021年には、ブルゴーニュ・アリゴテ、メルキュレイのブルゴーニュ・ルージュ、コート・ド・ブルイィなどの買いブドウからワインを造り、自らのプロジェ クトを開始した。現在はアルヌー・ラショー、クロ・ド・タールなどトップドメーヌの栽培コンサルタントとして 知られるベルナール・ジトの協力を得ながらワイン造りを行っている。
評論誌で次々に沸々と注目され始めている"静かなるスター候補”
初ヴィンテージをリリースして以来、アドリアンは静かに、しかし確実に業界内の注目を集めている。彼の名が最初に広く取り上げられたのは、ブルゴーニュ専門メディアWinehog だった。デンマーク出身の評論家スティーン・エーマンは、 アドリアンを“ブルゴーニュにおける new name”として紹介 し、高く評価した。注目すべきは、彼のワインが派手なス タイルや市場性を狙ったものではないという点だ。生産量はごく少量で、マーケティングに頼らず、試飲を通じて業界人 の間で静かに広がってきた。その結果、2023年にはパリやロ ンドンのワイン関係者の間でも話題となり、ソムリエやバイヤーたちが密かにリリースを追いかける存在となっている。 さらに、会員制ワイン販売プラットフォーム Crurated でも、アドリアンのプロフィールページが設けられ、彼の家族の歴史や各区画の背景、醸造哲学などが丁寧に紹介されている。Crurated では著名ドメーヌだけでなく、彼のような新世 代の造り手にも同様の扱いがなされており、限られた生産量 ながら確かな存在感を放つワインとして紹介されているのが印象的。いま、ブルゴーニュの未来を担う名前として、アド リアンは着実にその存在感を高めつつある。控えめで寡黙な スタイルのなかに、深い思想と土地へのまなざしを宿したワ インは、業界内で“静かなるスター候補”として期待されてい る。