クリスチャン・チダ / Christian Tschida

 クリスチャン・チダChristian Tschida

自由放任が生む異端の自然派スタイル

 オーストリア、ブルゲンラント州にあって「挑戦的な醸造」を進めつつも、その姿勢ゆえに“異端”と目される造り手が、**クリスチャン・チダ(Christian Tschida)**です。彼は伝統的なワイン造りの枠の中にとどまらず、自らの感性と畑の声を信じて“最小介入”を貫くスタイルを追求しています。

 チダ家は祖父・父の世代からこの地でブドウ栽培を続けてきましたが、クリスチャン・チダ自身は醸造学校を正式には経ず、もとはグラフィック・デザインの世界で活動していました。2007年、父から10ヘクタールほどの畑を継承した彼は、わずか1年のうちに既存のスタイルをすべて刷新し、自身のヴィジョンに基づく醸造へと大胆に舵を切りました(この転換は、後年の彼の評価を決定づける転換点となりました)。

 ワイン造りは祖父と父、そしてロワールとブルゴーニュの生産者達から見よう見まねで学んだというが、様々な大きさの木樽(225~2000ℓ)を自在に使いこなし、醸し発酵を含めた醸造方法を直感的に決めて、一度決めたらあとは極力手出しせずに樽の中のブドウがワインになるのをただ見守ります。彼のモットーは「レッセ・フェール(Laissez-Faire)」。すなわち「成り行きに任せる」「人の過干渉を排して、自然の調和に委ねる」という考え方です。醸造においては、醸し発酵を含む各段階を直感に基づいて決定し、一旦プロセスを始めたらあえて手を出さず、ワインが“自らの均衡”を獲得するのを見守る姿勢をとります。亜硫酸は原則ほとんど使用せず、しても極微量。瓶詰時にはノンフィルター(濾過なし)とし、醸造的な介入をできる限り排除します。

 彼の手法には、従来の「管理主義」に対する明確な反勢力としての思想性が見え隠れします。言い換えれば、「手をかけすぎず、素材と時間に信を置く」というスタンスを、畑から醸造まで一貫して貫く点が、彼を“異端”として捉えさせる所以でしょう。挑戦的な醸造に積極的なオーストリアにおいても異端と言われるのが現当主クリスチャン・チダです。醸造学校へ通ったこともなく、グラフィック・デザイナーだったが2007年に父親から醸造所を継ぐと、一年で全く新しい独自のスタイルに切り替えます。

 様々な品種をリリースする彼が造るワインには共通の世界観があり、自由奔放で壮大なスケール感を持ち、端正で繊細な深みを兼ね備えたキャラクターは他のワインでは持ち得ない独自の世界観を演出しています。

クリスチャン・チダのワインの特徴

 クリスチャン・チダが手がける畑は、主にイルミッツ(Illmitz)、ネウジードラー湖(Neusiedlersee)周辺を含むブルゲンラント東部に位置します。ワイナリーはかつて10 haとしてスタートしましたが、その後拡張し、現在は約14ヘクタールほどを所有・管理していると報じられています。また、湖を挟んで対岸のプルバッハ(Purbach)にも区画を取得しており、斜面地の冷涼要素を意識した展開も進めています。

 畑の土壌構成は多様で、砂利堆積層(sandy gravel)、粘板岩(schist/シスト)、石灰質(limestone)などが複雑に重なっています。これらの複合的な風土は、ぶどうにミネラル感や緻密な輪郭を与えると同時に、畑ごとの個性を際立たせる基盤となっています。また、湖の存在も重要で、ノイジードラー湖が温度緩和や水分供給の役割を果たし、葡萄の成熟を安定化させる影響を与えています。

 彼の栽培はビオロジックを基本とし、時にはバイオダイナミック的な視点も交えながら、畑の生態系維持に配慮する方針を採ります。堆肥利用や全体の生物多様性確保にも目を向け、羊・アヒル・ガチョウなどを飼育しながら畑の循環を意識する、いわゆる「多機能農業」的な取り組みも一部で実践していると伝えられています。品種の面では、白系・赤系問わず幅広く手を広げています。白ワイン用にはヴァイスブルグンダー(Pinot Blanc)、グリューナー・ヴェルトリーナー(Grüner Veltliner)、リースリング(Riesling)、ショイレーベ(Schiirebe)などが、赤系にはツヴァイゲルト(Zweigelt)、ブラウフレンキッシュ(Blaufränkisch)、カベルネ・フラン(Cabernet Franc)、シラー(Syrah)、ピノ・ノワール(Pinot Noir)等が含まれます。 各キュヴェでは、区画や樹齢・仕立て、醸造手法を緻密に変えることで、風土と品種の化学反応を最大化しようとする実験性が随所に見られます。 

 また、チダは大小さまざまな木樽(225 L から 2000 L というレンジも含む)を併用しており、発酵・熟成の場に“器の違い”を加えることで風味の多層性を引き出す設計を行っています。こうした畑と品種構成の多様性が、彼のワインに一定以上の「共通性」をもたらすと同時に、収穫年・キュヴェ間の変化にも開かれた余白を残す背景となっています。

オーストリア自然派ワインの異端

 オーストリア近年の自然派ワイン潮流の中で、クリスチャン・チダはいわば尖鋭的な存在です。多くの生産者が有機・持続可能性・軽めの介入を志向する中で、彼の「ほぼ無介入」「放任」アプローチは一線を画します。たとえば、Austrian Wine(オーストリアワインオフィス)は、チダが“繊細さを備えたビジョン派”として紹介し、その個性的なスタイルを強調しています。またワイン評論家サイト “Wine Anorak” も、2025年時点で彼を「オーストリアの自然派スター生産者」の一人と位置づけ、彼の14ヘクタール展開、最小限の硫黄使用、国際品種と現地品種の併用という構成を高く評価しています。

 彼の魅力は、単なるスタイルの異端性だけでなく、「放任でありながら緻密さを失わない均衡感」「野生性と構築性の同居」にあります。自然派ワイン愛好家や革新的な酒商から高評価を受ける一方で、伝統派の枠組みから外れることを危惧する声もあります。しかし、ワインというものが本来、地域・風土・時間を反映するものならば、「介入を減らして素材自身に語らせる」この姿勢は、ある意味で革新かつ必然とも言えます。

クリスチャン・チダの代表キュヴェ

2022 レッセ・フェール・ホワイト / クリスチャン・チダ

【1,500ml】2022 レッセ・フェール・ホワイト / クリスチャン・チダ

2022 ア・エ・イ・オ・ウ / クリスチャン・チダ

2022 フェルゼン II / クリスチャン・チダ


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