ベルナール・ボナン / Bernard Bonin

Bernard Bonin

ムルソーにおける「自然の声」の翻訳

 ブルゴーニュ・コート・ドールの中心、ムルソー村。そのなだらかな丘陵の中で、静かに、しかし確かな存在感を放つ白ワインの造り手がいます。ドメーヌ・ベルナール=ボナン(Domaine Bernard-Bonin)。ヴェロニク・ボナンとニコラ・ベルナール夫妻によって1998年に設立されたこのドメーヌは、ムルソーおよびピュリニー=モンラッシェの区画を中心に、自然と人の調和を極めた白ワインを生み出しています。そのワインは、厚みのある果実味にミネラルの緊張感が宿り、時間とともに香りが花開く洗練されたスタイル。ムルソーの重厚な「バター香」に象徴される従来の印象とは異なり、よりピュアで生命感のある味わいを志向しています。

 ドメーヌの起源は、ヴェロニクの祖父にあたるムルソーの名門「ドメーヌ・ミショー」にあります。彼女がその一部の畑を継承し、夫ニコラとともに独立したことで、ベルナール=ボナンが誕生しました。設立以来、夫妻は規模の拡大よりも品質と個性の追求を徹底し、現在では約7ヘクタールの畑を所有しています。主な区画は、ムルソーのレ・ティレ(Les Tillets)、ル・リモザン(Le Limozin)、クロ・デュ・クロマン(Clos du Cromin)などに加え、ピュリニー=モンラッシェのラ・ガレンヌ(La Garenne)、レ・フォラティエール(Les Folatières)など。いずれも石灰質を多く含む土壌で、ワインに清澄なミネラル感をもたらします。

 夫妻は1999年以降、化学肥料や除草剤を完全に排除し、有機栽培からビオディナミ農法へと移行しました。2021年にはDemeter認証を取得し、栽培・醸造のすべての過程で自然のリズムに沿うアプローチを実践しています。

 「可能な限り自然に」ムルソーの真のテロワールを表現すること

 ベルナール・ボナンのワイン造りの根幹には、「可能な限り自然に」という明快な哲学があります。この考え方は畑から醸造、瓶詰めに至るまで一貫しています。ニコラ・ベルナールは、「土は生きており、呼吸を必要としている」と語ります。その信念のもと、畑では年間を通して頻繁な耕作を行い、冬でさえも鍬入れを欠かしません。これは、土壌が酸素を吸い込み、根が深く呼吸できる状態を維持するための工夫です。また、天体のカレンダーに沿って作業を進めることも特徴です。植樹、剪定、収穫、瓶詰めに至るまで、月の満ち欠けや惑星の位置に応じて最適な日を選びます。これは単なる象徴的な儀式ではなく、自然界のリズムとワインの成長過程を調和させる科学的経験則として受け継がれています。

 ムルソーの中でも最も早い収穫を行う生産者のひとりとしても知られています。その理由についてニコラはこう語ります。「コート・ド・ボーヌの白には豊かさとミネラルが備わっている。この二つをエレガントに結びつけるためには、自然な酸が必要だ。」したがって、酸度を人工的に補うのではなく、ブドウが持つ本来のフレッシュさを保つために、収穫時期の判断には細心の注意を払っています。

 瓶詰めの際も、人為的な清澄や濾過は行いません。おり引きは瓶詰め直前、月のカレンダーに基づいた最適なタイミングで実施し、自然な安定化を促します。こうして得られるワインは濾過を経ない分、旨味成分と香味の複雑性を保持し、ボトル内での熟成によりさらなる奥行きを獲得します。ニコラはまた、こうも語ります。「ムルソーのワインが“バタリーで濃厚”とされてきたのは、必ずしもテロワールの本質ではない。」彼にとってムルソーとは、より透明で緊張感に満ちた土地なのです。したがって、彼のワインにはオーク香や過剰なリッチさはなく、かわりに岩塩や白い花、柑橘のような清涼感が広がります。それはまるで、土の呼吸がそのまま液体になったかのような味わいです。

 収穫したブドウはすべて手摘みで、区画ごとに小仕込みで醸造されます。搾汁後の果汁は澱とともに樽へ移され、18か月前後の熟成が行われます。使用する樽はフランス産オークで、新樽比率は20〜25%前後に抑えられます。目的は香りを付与することではなく、ワインの立体感と酸の骨格を優しく整えることです。熟成中、必要に応じて澱を攪拌(バトナージュ)しますが、過剰な介入は避け、ワインが自らの力で均衡を取る時間を尊重します。

こうして生まれるワインは、ミネラル感と果実味のバランスが見事で、アロマは白桃や洋梨、アーモンド、レモンピール、そして白い花。口に含むと緊張感と厚みが同居し、余韻には岩塩のような塩味が残ります。樽のニュアンスはあくまで背景にとどまり、中心にあるのは常に「土地の声」です。

代表的なキュヴェ

2023 ムルソー 1er Cru ジュヌヴリエール

ムルソー三大プルミエ・クリュのひとつ。南~東向きの0.77haの畑。樹齢は平均50年。香りの凝縮感、集中度、洗練性どれをとっても群を抜いており、完熟果実と強烈なミネラルが幾重にも折り重なるフレーバーを生み出している。生命力にあふれた力強さの中に気品が漂い、余韻には塩気を伴うクリスタルのようなミネラルが引き締める。

 

2023 ムルソー 1er Cru シャルム・ドゥス

ムルソー三大プルミエ・クリュのひとつ。南~東向きの僅か0.28haの畑。樹齢は平均50年。熟度の高い果実を思わせる芳醇で力強いアロマ。シャルムらしい優美でふくよかな口当たり。力強いフルボディの中に緊張感あるミネラルがあり、素晴らしい張りがある。フィニッシュには透明感のあるクリアなミネラルが伸び、奥深く長い余韻につながる。熟成のポテンシャルが極めて高い偉大なワイン。