シャトー・マルゴー/ Chateau Margaux

シャトー・マルゴー-Wine Library

Chateau Margaux

王侯貴族の名を冠するボルドーの至宝

 シャトー・マルゴーは、ボルドー左岸メドック地区に位置する世界屈指の名門ワイナリーです。メドック格付け1855年において第一級に列せられた五大シャトーのひとつであり、その名は村の名「マルゴー」と重なってアペラシオン全体の象徴にもなっています。荘厳なネオ・パラディアン様式のシャトー建築は「メドックのヴェルサイユ」とも称され、畑と建物の美しさが格付け以上の品格を語りかけます。歴史を遡ると、この地でのブドウ栽培は16世紀半ばにはすでに始まっており、17世紀には栽培と醸造の両面で革新的な技術を導入したことから「ボルドー初のグラン・クリュ」とも呼ばれる存在となりました。

 18世紀から19世紀にかけて、シャトー・マルゴーはヨーロッパ王侯や文学者に愛され、特にトーマス・ジェファーソンがアメリカ独立戦争後にこのワインを称賛した逸話はよく知られています。19世紀には格付け制度によって公式に「第一級」の称号を得、その後の歴史でも「華麗さと優雅さを極めたボルドー」という不動の評価を築いてきました。20世紀後半には一時期品質の低迷を経験しましたが、1977年にアンドレ・メンツェロプロス氏がシャトーを取得し、娘のコリーヌ・メンツェロプロスがその遺志を継いで経営を刷新。栽培から醸造、施設改修に至る徹底した改革によって、シャトー・マルゴーは再び「ボルドーの女王」と称される栄光を取り戻しました。

テロワールの精緻な構造と品種の調和

 シャトー・マルゴーの畑はおよそ82ヘクタールに及び、砂利質土壌と粘土石灰質の複雑な地層が広がっています。表層は水はけの良い砂利で覆われ、下層には粘土や石灰質が層をなし、根が深く張ることで乾燥や過剰降雨にも耐える強靭さとバランスをブドウにもたらします。この土壌条件は、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心とした赤ワイン品種に最適であり、そこにメルロー、プティ・ヴェルド、カベルネ・フランが補完的に加わることで、骨格と優雅さを兼ね備えた複雑なワインが生み出されます。

 白ワイン用には、敷地の一部にソーヴィニヨン・ブランが植えられ、少量生産ながら世界的に注目を集める「パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー」が造られています。こちらは石灰質の多い区画で栽培され、張りのある酸と芳醇な果実香、長期熟成にも耐える厚みを備えています。

 栽培は持続可能性と自然環境への配慮が重視され、近年ではオーガニック農法やビオディナミの要素も試みられています。収穫はすべて手作業で行われ、区画ごとに果実を厳密に選別し、果実の熟度と健全さを徹底的に吟味するプロセスを経てセラーへと運ばれます。

醸造とスタイル――華麗さと均衡の頂点

 醸造は区画ごとに小仕込みで行われ、発酵はステンレスタンクまたは伝統的な木製タンクで管理されます。抽出は強すぎず、ブドウのポテンシャルを最大限に引き出しながらも、タンニンに繊細さを持たせることが重視されます。熟成にはフランス産のオーク樽を用い、新樽比率はファースト・ワインにおいてはほぼ100%に達します。樽熟成の期間は18〜24か月で、絶妙な酸素供給を通じて香味の統合と複雑性の深化がもたらされます。

 シャトー・マルゴーの赤は、しばしば「シルクのようなタンニン」と形容され、力強さよりも優雅さ、骨太さよりも香気の高貴さに重きを置くスタイルです。ブラックカラントやスミレの香り、繊細なスパイス、トリュフやタバコ、杉のニュアンスが幾層にも重なり、長大な余韻が続きます。若いうちは閉じ気味ですが、熟成を経ることで香りと味わいが解き放たれ、20年以上の熟成で真価を発揮する長命なワインです。

 セカンドワインである「パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー」も、格付けワインに迫る品質を持ち、若いうちから楽しめる柔らかさと均整を示します。また、白の「パヴィヨン・ブラン」は、柑橘や白桃、花の芳香が広がり、熟成によって蜂蜜やナッツのニュアンスを帯びるなど、ボルドー白ワインの中でも特異な存在感を放ちます。

代表的なキュヴェ

2003 パヴィヨン・ルージュ・ド・シャトー・マルゴー

2009 パヴィヨン・ルージュ・ド・シャトー・マルゴー

2015 パヴィヨン・ルージュ・ド・シャトー・マルゴー

2006 シャトー・マルゴー