シャトー・シュヴァル・ブラン / Chateau Cheval Blanc

シャトー・シュヴァル・ブラン-Wine Library

Chateau Cheval Blanc

右岸の至高、ボルドーが生んだ永遠のグラン・ヴァン

 ボルドー右岸の聖地、サン・テミリオン北西の平原。その一角、プモローとの境界線上に広がる区画に、世界中のワイン愛好家が畏敬の念を抱く名が刻まれています。シャトー・シュヴァル・ブラン(Château Cheval Blanc)。その名が意味する「白い馬」のように、気高く、しなやかに、そして力強く時代を駆け抜ける存在。右岸の理想、そしてボルドーの象徴として、いまなお世界最高峰のグラン・ヴァンに数えられます。

 シャトー・シュヴァル・ブランの起源は1832年。名門シャトー・フィジャックから15ヘクタールの区画を分割購入したことに始まります。この土地は古くから「粘土と砂利が共存する稀有な土壌」として知られ、右岸にして左岸的な構造を併せ持つ特異なテロワールでした。19世紀後半、品質は急速に向上し、すでに19世紀末にはヨーロッパの王侯貴族の食卓を飾る名声を獲得します。
1947年、このシャトーを永遠に不滅の存在へと押し上げた伝説的ヴィンテージが誕生しました。
この年の「シュヴァル・ブラン 1947」は、世界中の評論家から「20世紀最高のボルドー」と称えられ、2010年11月にはクリスティーズのジュネーヴ・オークションにて6リットル瓶(インペリアル)が304,375ドルで落札され、ル・モンド紙やル・フィガロ紙が「史上最高額のワイン」として報じています。さらに2013年には12本入りケースが131,600ユーロで落札され、まさに「ワイン市場の神話」となりました。

 1955年、サン・テミリオン格付け制度が制定され、シャトー・シュヴァル・ブランは最上位「Premier Grand Cru Classé A」に選ばれました。この称号は、ボルドー左岸の五大シャトーに並ぶ名誉であり、右岸の象徴として長年君臨してきました。しかし2021年、シュヴァル・ブランはあえて格付け制度から離脱。シャトー・オーゾンヌとともに、「ワインは格付けによってではなく、品質によって語られるべきだ」との声明を発表しました。この決断は世界のワイン界を揺るがせ、デキャンター誌も「伝統からの静かな革命」と評しています。それでもなお、誰もが疑いなく認める「格付けを超えた存在」であることに変わりはありません。

奇跡のモザイクで醸される絹のような質感と無限に続く余韻

 シュヴァル・ブランの畑は39ヘクタール、55区画に細分化され、それぞれが微妙に異なる土壌と方角を持ちます。プモローの青粘土、サン・テミリオンの砂利質、石灰質の要素が共存し、カベルネ・フラン(約55%)とメルロ(約40%)という独特のブレンド比率がこの地の個性を際立たせます。カベルネ・フランがもたらす繊細な骨格と香り、メルロが生む肉厚な果実味。両者が融合することで「力強さの中に優雅さがある」シュヴァル・ブラン独自の表現が生まれます。

 グラスに注ぐと、ルビーからガーネットへと変化する深い色調。香りはブラックチェリー、スミレ、グラファイト、リコリス、そして熟成を重ねるとトリュフや葉巻、カカオの陰影が漂います。口に含むと、絹のように滑らかなタンニンが舌を包み、濃密な果実と凛とした酸が美しい対位法を奏でます。若いヴィンテージでは力強さと純粋さ、熟成を経ると妖艶で深遠な静けさが現れ、まるで時間が液体となったかのような、神秘的な余韻を残します。