ヘイマン・レーヴェンシュタイン / Heymann Lowenstein

Heymann Lowenstein
モーゼルにて辛口リースリングにこだわるヘイマン・レーヴェンシュタイン
ドイツ・モーゼル地方の最北端に位置するヴィニンゲン村、そこに居を構えるヘイマン・レーヴェンシュタインは、ワインを「文化的な遺産」として定義する稀有な生産者です。当主ラインハルト・レーヴェンシュタイン氏は、1980年にこの地でドメーヌを設立して以来、テラッセンモーゼルと呼ばれる過酷な断崖絶壁のテロワールを世界に知らしめることにその情熱を捧げてきました。彼は、ワインがその土地の地質学的記憶と、そこに流れる時間を雄弁に物語る存在であるべきだという信念を持っています。そのため、ヘイマン・レーヴェンシュタインが世に送り出すリースリングは驚異的な重厚さと複雑なミネラル感を備えています。
青、赤、グレー、そしてシリカを含む多種多様なスレート土壌が複雑に入り組むヴィニンゲンの地層を、レーヴェンシュタインはリースリングという品種を通じて表現しています。ワイン造りにおいては、野生酵母による自然な発酵と、大樽での長期にわたるシュール・リー熟成を重んじています。これにより、ワインには圧倒的なテクスチャーと、口の中を力強く掴むような多層的な旨味が生まれます。
ヘイマン・レーヴェンシュタインが描くモーゼルの真髄としてのリースリング
ヘイマン・レーヴェンシュタインを語る上で欠かせないのが、VDP(ドイツ高品質ワイン生産者連盟)におけるその指導的な役割と、独自の格付け思想です。ラインハルト氏は、ワインの品質を糖度によって分類する従来のドイツのワイン法に疑問を呈し、ブルゴーニュのように「畑の格付け」こそがワインの価値を決定づけるべきだと主張してきました。彼の努力もあり、現在ではテラッセンモーゼルの特級畑(グローセ・ラーゲ)から生まれる辛口リースリングは、世界中の愛好家から畏敬の念を持って迎えられています。特に彼が所有する「ウーレン」の畑は、その地質学的複雑さから「世界で最も難解で、かつ最も美しい畑の一つ」と称賛されています。ウーレンの中には、酸化鉄を豊富に含む赤いスレートの「ロート・ライ」、貝殻の化石を含む「ラウバッハ」、そして硬質なシリカを含む「ブラウフュッサー・ライ」といった異なる区画が存在し、ヘイマン・レーヴェンシュタインはこれらを別々に瓶詰めすることで、土壌の僅かな違いがワインの骨格や余韻にどのような変化をもたらすかを克明に表現しています。例えば、ロート・ライから生まれるワインは、野性味溢れるスパイスの香りと、喉の奥に長く留まる強烈な塩味を特徴とし、一方でラウバッハはよりエレガントで、クリーミーな質感とフローラルなアロマを纏います。これらのワインを味わうことは、まさに「液体となった土地の深み」を体験することでしょう。
レーヴェンシュタインのワインには貴腐菌(ボトリティス)がもたらす複雑味が肯定的に取り入れられており、それが辛口仕立てであっても、ドライアプリコットやハチミツ、さらにはスモーキーなニュアンスを加え、ワインに圧倒的な存在感と長期熟成のポテンシャルを与えています。醸造過程では、あえてブドウの皮との接触時間を長く取ることで、フェノール類の凝縮を高め、ワインに心地よい刺激をもたらします。このような独自の手法により、ヘイマン・レーヴェンシュタインのリースリングは、若いうちは非常にタイトで閉じていますが、5年から10年、あるいはそれ以上の熟成を経ることで、抑制されていたエネルギーが解放され、驚くべき芳醇さと奥行きを見せるようになるのです。