ジェローム・プレヴォー/Jérôme Prévost

Jérôme Prévost
アンセルム・セロスの教えを受け継ぐ唯一無二のシャンパーニュ
シャンパーニュ地方の「RM(レコルタン・マニピュラン)」の中で「唯一無二」と評される存在が、モンターニュ・ド・ランス西側の村 Gueux(ギュー)に拠点を構える ジェローム・プレヴォー です。彼が手掛ける シャンパーニュ・ラ・クロズリー は、世界中の愛好家やソムリエ、コレクターから「ピノ・ムニエの可能性を極限まで引き出したシャンパーニュ」として高く評価されています。
ジェローム・プレヴォーはもともと家族が所有していた小さな畑を受け継ぎました。1990年代半ば、彼は名門ジャック・セロス(Jacques Selosse)のアンセルム・セロスに師事し、シャンパーニュにおけるビオロジック栽培や自然酵母発酵、そしてテロワールを直接ワインに反映させる重要性を学びます。セロスが果敢に実践した「シャンパーニュを土地の表現として造る」という思想は、プレヴォーの哲学の核となりました。プレヴォーが最も大切にしている畑は、村ギューに位置する“Les Béguines(レ・ベギーヌ)”と呼ばれる区画です。およそ2.1ヘクタールほどの小規模な畑で、植えられている品種はほぼピノ・ムニエ100%。シャンパーニュの主役とされるシャルドネやピノ・ノワールに比べ、かつては「補助品種」と見なされてきたムニエですが、プレヴォーはこの品種のポテンシャルに強い確信を抱き、その個性を最大限に表現することに全てを注いでいます。畑は石灰質と砂質が混ざる土壌で、ブドウの根が深く伸びることにより、酸とミネラルのバランスに優れた果実が得られます。化学肥料や除草剤は一切用いず、有機農法に準じた栽培を行い、畑の生物多様性を尊重しています。平均樹齢は30年以上に達し、古樹特有の凝縮感と複雑味を備えたブドウが収穫されます。
収穫されたブドウは極めて厳格に選果され、天然酵母による発酵が行われます。プレヴォーはステンレスタンクをほとんど使用せず、古樽や600リットルのデミ・ミュイ(中樽)で発酵・熟成させることで、果実の酸とミネラルを柔らかく包み込みながらも、複雑で奥行きのある味わいを実現しています。澱とともに長期間熟成させた後に瓶詰めされ、二次発酵を経て市場に出荷されるまでには平均で7〜10年の時間が費やされます。こうして誕生するワインは、一般的な大手シャンパーニュとは異なり、ブドウの持つ個性や年ごとのヴィンテージの特徴が強く映し出されます。
代表作は“La Closerie Les Béguines”。ピノ・ムニエ単一で造られるこのキュヴェは、赤系果実と柑橘、白い花のアロマに加え、石灰や貝殻を思わせる鮮烈なミネラルが感じられます。口に含むと豊かな果実味と繊細な酸が広がり、余韻にはナッツやスパイス、塩味のニュアンスが長く残ります。また少量生産される“Fac-Simile Rosé”も高い人気を誇り、ムニエ由来の赤果実の華やかさと深みを楽しむことができます。生産量は年間わずか数万本以下にとどまり、その希少性から世界中の市場で争奪戦が繰り広げられています。特にミシュラン星付きレストランやワイン専門店では、入荷と同時に完売するケースも珍しくありません。
ジェローム・プレヴォーのシャンパンは、単なる高級品という枠を超え、「シャンパーニュの新しい地平を切り拓いた存在」として語られます。従来は二流と見なされがちだったピノ・ムニエを、ここまで高貴で洗練された表現に高めたことは、シャンパーニュ全体の価値観を大きく変えるものでした。そのスタイルは、しばしば「ジャック・セロスの思想を受け継ぎつつ、独自の解釈で深化させたもの」と称され、セロス、アグラパール、エグリ=ウーリエと並んで、世界のシャンパン愛好家から熱烈に支持されています。ムニエという品種に対する固定観念を覆し、テロワールの力と造り手の情熱が生み出す芸術的なワインとして世界的に高い評価を受けています。ル・メニルやアヴィーズのシャルドネが生むブラン・ド・ブランとは異なる、豊かな果実味と深いミネラルの調和は、シャンパーニュの多様性を再認識させるものです。小さな区画と少量生産、そして妥協のない品質追求が築き上げたこのワインは、まさに「唯一無二のシャンパーニュ」。希少性ゆえに入手は困難ですが、その一口がもたらす体験は、シャンパーニュという飲み物の枠を超えた特別な価値を持っています。
代表的なキュヴェ