シャトー・レ・カルム・オー・ブリオン / Ch. Les Carmes Haut-Brion

シャトー・レ・カルム・オー・ブリオン - Wine Library

 Ch. Les Carmes Haut-Brion

カベルネ・フランが描く、評論家大絶賛の左岸の気品

シャトー・レ・カルム・オー・ブリオンは、今やペサック・レオニャンの、ひいてはボルドー全体の序列を塗り替える「静かなる革命」の象徴となりました。かつては第1級シャトー・オー・ブリオンの影に隠れた小規模なエステートに過ぎませんでしたが、2010年に不動産王パトリス・ピシェが買収し、2012年にディレクターとしてギヨーム・プティエが就任したことで、その運命は劇的な変貌を遂げることになります。

このシャトーを唯一無二の存在へと押し上げた最大の要因は、ボルドーのタブーとも言える「全房発酵」の大胆な導入です。温暖化によって多くのボルドーワインが過熟と高アルコールに悩まされる中、プティエ氏は梗(茎)を残したまま発酵させる手法を選択しました。これにより、液体には驚異的なフレッシュさと、垂直に伸びる鋭いストラクチャー、そして黒胡椒やドライハーブを思わせる高貴なスパイス香が宿りました。さらに、ポンプによる過度な抽出を避け、ティーバッグを浸すように優しく成分を引き出す「インフュージョン(浸漬)」の手法を徹底することで、13%台という理想的なアルコール度数と、クリスタルのような透明感を実現しています。

テロワールにおいても、レ・カルムは極めて特異です。メドックやグラーヴの主流であるカベルネ・ソーヴィニヨンではなく、粘土質と石灰岩が混在する独自の土壌を活かし、カベルネ・フランを40%以上という異例の比率で栽培しています。この「左岸における右岸的アプローチ」が、ポムロールのトップシャトーを彷彿とさせる官能的なスミレのアロマと、シルクのように滑らかな質感をボルドー左岸のワインに刻み込みました。熟成には新樽だけでなく、大樽(フードル)やテラコッタのアンフォラを併用することで、過剰な樽香を排し、ブドウ本来の生命力を剥き出しのまま表現しています。

シャトーの敷地に足を踏み入れると、フィリップ・スタルクとリュック・アルセーヌ=アンリが設計した、川のほとりに突き刺さる金属製の船首のような醸造所が目を引きます。この前衛的な建築は単なる意匠ではなく、地下の冷涼な環境を利用した自然な温度調節と、重力を利用してワインを移動させるグラビティ・フローを完璧に機能させるための精密な装置です。この知的な空間から生み出された2022年ヴィンテージは、ワイン・アドヴォケイト(ウィリアム・ケリー)やヴィノス(アントニオ・ガッローニ)といった主要な評価誌で軒並み「100点満点」を獲得。もはや「1級シャトーを脅かす存在」ではなく、ボルドーにおけるエレガンスの新たな頂点として、その地位を不動のものにしました。