メゾン・パチュール / MAISON PATURE

メゾン・パチュール-Wine Library

MAISON PATURE

アヴィーズに息づく新世代の志とコート・デ・ブランの精華

 シャンパーニュの中心地のひとつ、コート・デ・ブラン。アヴィズ、オジェ、クラマンといったグラン・クリュの名で知られるこの白亜の丘に、2023年に正式登録された気鋭のメゾンがメゾン・パチュール(Maison Pature)です。創業者はエリアン・パチュールとマテオ・パチュールという従兄弟同士。祖母の所有していたアヴィズの古い醸造所を、現代的な設備と感性を備えた醸造スペースへと刷新し、家族の知恵と次世代のアプローチを重ね合わせるかたちでスタートを切りました。事業体としてはアヴィズの住所で2023年4月に登記され、代表者に両名の名が確認できます。新設ながら、立地と人脈に裏打ちされたブドウ調達、そして区画単位での厳密な選果により、土地の個性をダイレクトに引き出すスタイルを志向しているのが特徴です。メゾンとしての姿勢は一貫して「ブラン・ド・ブランの純粋性とコート・デ・ブランらしい緊張感(テンション)、そして白亜質がもたらすミネラルの描写」を第一に据える点にあり、初年度から各方面で関心を集めています。

N-Mとしてのシャンパーニュづくり

 メゾン・パチュールがまず明確にしているのは、調達するぶどうの出自です。初リリースから中核となるのは、アヴィーズ、オジェ、クラマンというコート・デ・ブランを代表する三つのグラン・クリュに限定したシャルドネ。いずれも白亜質の母岩と薄い表土が生む、張りのある酸ときめ細かな質感で知られ、長熟ポテンシャルを備えるテロワールです。メゾンの立場としては「ネゴシアン・マニピュラン(N-M)」表記の運用を公言し、家族・親族のネットワークや地元の信頼関係にもとづく厳密な買いぶどうの選別を行います。単に産地名を掲げるのではなく、区画ごとの個性(微地形や表土の厚み、植樹年などがもたらす差異)を大切にし、その年にふさわしいブレンド比率を組み立てることを重視します。いわば「グラン・クリュ×区画主義」の折衷:単一区画主義の潔さと、複数区画の相補性を併せ持つ設計思想です。

 N-Mであることの意義は、テロワールを精密に描くための“選択肢の広さ”にあります。ドメーヌ(R-M)が自社畑の輪郭内で最大限の表現を求めるのに対し、N-Mは年ごとの成熟度や房健全度、酸組成、pHや窒素同化度などの条件が理想に合致する区画へ的確にアクセスできます。これにより、たとえばアヴィズ由来のタイトな骨格に対して、オジェの柔らかさと塩味を思わせる旨み、クラマンの可憐なアロマやクリーミーなタッチを重ねることで、ワインの立体感と均衡を精妙にチューニングすることが可能になります。メゾンとして若くとも、グラン・クリュの“最短距離”に立つ設計は、コート・デ・ブランというエリアの王道を踏まえつつ、コンテンポラリーな精度で仕上げる新世代らしさの表明でもあります。

初キュベ「プルミエ・パ」がもたらした衝撃

 メゾンの門出を飾ったのが、100%シャルドネのブラン・ド・ブラン「Premiers Pas(最初の一歩)」です。グラン・クリュのアヴィズ、オジェ、クラマンの果実のみを厳選し、アルコール度数は12%前後、スタイルとしてはエクストラ・ブリュットのレンジに収めています。ドザージュは3g/L前後で、コート・デ・ブランの白亜質由来の張りと直線性を損なわず、果皮の繊細なニュアンスやチョーキーなタッチをそのまま前景化させる考え方です。初期ロットでは2018年収穫の要素を含み、ティラージュ後の瓶熟成を経て2023年末頃のデゴルジュマンが示されています。こうした設計は、いわゆる“ブラン・ド・ブランの王道”に忠実でありながら、現在の国際市場で支持される「低ドザージュ×高精度抽出」の潮流にも呼応します。

 味わいのプロファイルは、レモンピールや青リンゴ、白い花、チョーク粉、潮のニュアンスが第一印象。温度が上がると、洋梨や白桃のフレッシュさが見え隠れし、クラマン由来とみられる柔らかいクリーム感やアーモンドの白いニュアンスが膨らみます。口中では「細身なのに出力がある」印象で、骨格はアヴィズらしい緊張感、オジェの塩味とふくらみがミッドに厚みを与え、余韻には白亜質のクリーンな苦味と微細なスパイスが残ります。食中では生牡蠣や帆立のカルパッチョ、鮪のトロよりは中トロ~赤身寄り、または山葵や木の芽、柚子胡椒を効かせた前菜との相性がよく、塩気のきいたフロマージュ・ド・シェーヴル、もしくはウォッシュよりもバター香のあるソフトタイプを合わせたいところです。和食ならば天ぷら(白身魚や小柱)や、出汁の効いた椀物との調和も良好です。

 醸造についてメゾンが一般公開している情報は限定的ですが、少なくとも「区画単位の選果」「低ドザージュでの仕上げ」「ボトル熟成に時間を割く」ことは明確で、これは香りの清潔感と口中のテクスチャーコントロールに直結します。特に3g/Lというドザージュの設定は、グラン・クリュのシャルドネに備わる内在的な甘やかさ(成熟由来のグリセロール感や果実の自然な厚み)と、冷涼産地ならではの酸の垂直性のバランス点を狙ったもの。過度な還元や酸化に頼らず、果実と白亜質のミネラルで“音像をクリアにする”考え方は、近年の高品質ブラン・ド・ブランに通底する合意でもあります。

 

代表的なキュヴェ

 NV プルミエ・パ(B18)