パスカル・マゼ

Pascal Mazet

モンターニュ・ド・ランスのテロワールを映す職人的シャンパーニュ

パスカル・マゼは、シャンパーニュ地方モンターニュ・ド・ランスに拠点を構える小規模なレコルタン・マニピュラン(RM)です。長年にわたり、伝統的な製法と有機農法を組み合わせながら、土地の個性を最大限に引き出すシャンパーニュを生み出してきました。その味わいは、洗練されつつも力強く、シャンパーニュ愛好家や専門家の間で高い評価を得ています。

1976年に自社瓶詰めを開始しました。それ以前は、大手メゾンにブドウを供給する栽培農家でしたが、「自身の手で育てたブドウを、自らの手でシャンパーニュに昇華させる」という強い信念のもと、独立した生産者としての道を歩み始めました。マーケットを意識した均質的なスタイルではなく、畑ごとの個性を際立たせる造りが特徴です。大量生産を前提としたブレンドではなく、収穫年の特性や土壌の影響を忠実に反映させることで、ワインごとに異なる表情を持たせています。

生産規模は非常に小さく、年間の生産量は約16,000本と限られています。この数字は、品質を徹底的に管理し、細部までこだわり抜く彼の哲学を反映したものです。市場に出回る本数が限られるため、特にシャンパーニュ愛好家や専門家の間で高く評価されています

有機農法によるテロワールの純粋な表現

パスカル・マゼが所有する畑は、モンターニュ・ド・ランスのなかでも特に優れた区画に位置しています。グラン・クリュに格付けされるアンボネイをはじめ、リュードやシニー=レ=ローズといったプルミエ・クリュの畑を所有しており、ここで栽培されたブドウが、シャンパーニュに奥行きと複雑味をもたらします。特筆すべき点は、2013年に有機認証を取得したビオロジック農法を実践していることです。それ以前から化学肥料や除草剤を一切使用せず、環境への負荷を最小限に抑えた栽培を続けてきました。土壌の健全性を守るために、自家製の堆肥を使用し、病害対策にはボルドー液や植物エキスを活用するなど、持続可能な農業を徹底しています。

また、所有するブドウの樹齢も高く、ピノ・ノワールは40年以上、シャルドネは50年以上の樹が多く植えられています。高樹齢のブドウは収量が自然に抑えられるため、果実の凝縮度が増し、より複雑で奥行きのある味わいを持つシャンパーニュへと仕上がります。収穫はすべて手摘みで行われ、厳格な選果を実施しています。未熟なブドウや病害のある果実を取り除き、完熟した健全な果実のみを使用することで、ワインのクオリティを最大限に引き出しています。

精緻なバランスと奥深い余韻

パスカル・マゼの醸造は、極力自然なプロセスを重視し、ブドウ本来の個性をそのまま表現することに注力しています。収穫したブドウは、伝統的な空気式圧搾機を使用し、果汁をゆっくりと丁寧に抽出することで、不要な苦味や雑味を抑えています。発酵は主にフレンチオーク樽で行われ、野生酵母を用いた自然発酵を基本としています。これにより、ワインには微細な酸化のニュアンスと複雑な風味が加わり、より奥行きのある仕上がりとなります。また、リザーヴワイン(過去のヴィンテージワイン)は50ヘクトリットルの大樽で熟成され、毎年ブレンドに使用されることで、ワインの一貫性と深みが保たれています。

二次発酵には、エルヴェ・ジェスタンとフルーリーが開発したナチュラルな酵母「クォーツ」を使用し、最低でも36か月以上の瓶内熟成を経てリリースされます。この長期熟成により、泡はきめ細かくクリーミーになり、シャンパーニュ全体のバランスが整います。香りにはブリオッシュやナッツのニュアンスが感じられ、口に含むとミネラル感のあるシャープな酸と、果実の旨味が調和した味わいが広がります。結果として、パスカル・マゼのシャンパーニュは、モンターニュ・ド・ランスのピノ・ノワールらしい力強さを持ちつつも、洗練されたエレガンスを兼ね備えたスタイルとなっています。