フィリップ・パカレ / Philippe Pacalet

Philippe Pacalet
ブルゴーニュにおけるナチュラルワインの先駆者
フランス・ブルゴーニュ地方において、21世紀のワイン造りの歴史を塗り替えた人物を一人挙げるとするならば、それは間違いなくフィリップ・パカレ氏でしょう。彼は、単なる「自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)」の造り手という枠を超え、ワインの中に宿る「生命力」と「土地の記憶」を解き放つ存在です。パカレ氏のルーツは、自然派ワインの父として知られるマルセル・ラピエール氏を叔父に持ち、現代醸造学の常識を覆したジュール・ショヴェ氏の哲学を色濃く受け継いでいます。ワイン造りを極めるためにローヌ地方シャトーヌフ・デュ・パフの第一人者「シャトー・ラヤス」、そしてブルゴーニュの名門ドメーヌ「ルロワ」で修業しました。しかし、彼の名声を決定づけたのは、ドメーヌ・プリューレ・ロックでの10年間にわたる醸造責任者としての華々しい実績、そして何よりも、世界最高峰のドメーヌである「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)」からの醸造責任者就任の要請を、「自らの自由な哲学を貫くため」に辞退したという驚愕のエピソードです。
2001年、彼は自らの名を冠したメゾンを立ち上げました。自社畑の割合が少ないフィリップ・パカレは、パカレ氏が独立前から選んできた低収量の栽培農家からブドウを購入しワイン造りを行っています。驚くべきことに、彼は当初、自社畑を一切所有しない「ネゴシアン(買いブドウによる造り手)」という形態を選びました。これは、広大な土地を所有することに伴う経済的・政治的な制約から解放され、純粋に「最高のテロワールを持つブドウ」を自らの目で見極め、最高のワインを造ることだけに集中するための戦略的な選択でした。2007年には、より丁寧な畑仕事のため、畑仕事のプロフェッショナルを集めたブドウ栽培会社を設立。台木選びから醸造まで全ての過程において、自らチームの監督として畑に出向きます。各過程ごとの専門チームを作ることで、パカレ氏が理想とする「果梗まで熟した良質なブドウ」が作られるのです。現在、彼はボジョレーからシャブリに至るまで、ブルゴーニュの多様なアペラシオンを網羅していますが、その全てのボトルに共通しているのは、一切の虚飾を剥ぎ取った後に現れる、震えるような「純粋さ」です。パカレ氏が奏でるワインは、私たちの五感を揺さぶり、ワインとは農産物である以上に、大地と人間が交わした「誓い」であることを思い出させてくれます。