【2026年注目】 ヴィニョーブル・デ・カボットとは?ブシャール・ペール・エ・フィスから生まれたブルゴーニュ新ドメーヌの全貌——設立の経緯・畑・全15アイテム・ファーストヴィンテージ2023を徹底解説

 

【2026年注目】 ヴィニョーブル・デ・カボットとは?ブシャール・ペール・エ・フィスから生まれたブルゴーニュ新ドメーヌの全貌——設立の経緯・畑・全15アイテム・ファーストヴィンテージ2023を徹底解説 - Wine Library

【2026年注目】
ヴィニョーブル・デ・カボットとは?ブシャール・ペール・エ・フィスから生まれたブルゴーニュ新ドメーヌの全貌——設立の経緯・畑・全15アイテム・ファーストヴィンテージ2023を徹底解説


ブルゴーニュの歴史において、これほど注目された「新しいドメーヌ」の誕生は近年類を見ません。2025年、シャトー・ラトゥールやクロ・ド・タールを擁するアルテミス・ドメーヌが発表した「ヴィニョーブル・デ・カボット(Vignoble des Cabottes)」は、名門ブシャール・ペール・エ・フィスが所有していた約130haの畑から、コート・ド・ボーヌの最良区画だけを抜き出して独立させた、約35〜36haの自社畑ドメーヌです。モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュ、ムルソーのプルミエ・クリュ群、そして伝説の「ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ」——ブルゴーニュ白の最高峰が一堂に会するこのドメーヌのファーストヴィンテージ2023が、2026年についに市場に登場しました。本記事では、その設立の背景から全ラインナップまでを詳しく解説します。

ヴィニョーブル・デ・カボット 基本情報
設立:2025年(発表)/ファーストヴィンテージは2023年、2026年より販売開始
所有:アルテミス・ドメーヌ(フランソワ・ピノー氏のグループ。シャトー・ラトゥール、クロ・ド・タール、ドメーヌ・デュジャック等を擁する)
畑:約35〜36ha、すべてコート・ド・ボーヌの自社所有畑(グラン・クリュ・プルミエ・クリュ・モノポール)
品種:シャルドネ/ピノ・ノワール 標高:200〜300m 土壌:石灰質粘土・粘土質下層土
醸造責任:ヴィクトール・ペパン、フレデリック・ウェベール(ブシャールで20年以上醸造を担当)
将来の醸造所:シャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェに環境配慮型の新設備を建設予定

ヴィニョーブル・デ・カボットとは——2025年に誕生した新ドメーヌ

ヴィニョーブル・デ・カボットは、2025年にアルテミス・ドメーヌが発表した、ブルゴーニュ・コート・ド・ボーヌの新しいワイン生産主体です。「新ドメーヌ」と言っても、新たに畑を購入したわけではありません。アルテミス・ドメーヌが2022年に取得した名門ブシャール・ペール・エ・フィスの広大な自社畑(約130ha、うち3分の2がプルミエ・クリュとグラン・クリュ)のうち、コート・ド・ボーヌの最も象徴的な区画だけを抜き出し、独立した名前と組織を与えた——これがカボットの正体です。

つまり、これまで「ブシャール・ペール・エ・フィス」のラベルで流通していたモンラッシェやコルトン・シャルルマーニュ、ムルソー・ペリエールといった最上級キュヴェが、2023年ヴィンテージからは「ヴィニョーブル・デ・カボット」という新しいラベルで登場することになります。中身のテロワールは何世紀も変わらないにもかかわらず、名前が変わる——ブルゴーニュ愛好家にとって、これは極めて大きな出来事です。

なぜ分離したのか——「時間がなかった」という告白

ネゴシアン業務と自社畑の分離

ブシャール・ペール・エ・フィスは1731年創業の名門であり、ブルゴーニュ有数の自社畑所有者であると同時に、大規模なネゴシアン(買いブドウ・買いワインによる生産)でもありました。この二つの事業が同じ組織の中に同居していたことが、今回の分離の背景にあります。

フランスのワイン誌のインタビューで、カボットの副総責任者であり20年以上ブシャールで醸造を担ってきたフレデリック・ウェベールは、率直にこう語っています——「以前は、時間がなかった」。そして「今や、精度を上げるためにリズムを変えることが求められている」と続けます。広大な畑と大量のネゴシアン業務を同時に回す体制では、一区画ごとに向き合う時間が物理的に足りなかった。そこで対象面積を絞り込み、人員と資源を畑そのものに集中させるという判断が下されたのです。

「限られた範囲に投資できるようにしたかった」

ウェベールは分離の狙いをこう説明しています。「限られた範囲に自分たちを投じられるようにしたかった。唯一無二のテロワールのコレクションを前面に打ち出すという、卓越性の追求のために」。35haという面積は、ブルゴーニュの優良ドメーヌとしてはむしろ標準的な規模であり、区画ごとの管理を徹底できる現実的なサイズです。

この判断は、2000年代以降のブルゴーニュ全体の潮流とも一致します。かつては大手ネゴシアンのブランド力が価値を決めていましたが、現在は「誰がどの畑をどう耕したか」が評価の中心にあります。カボットの設立は、大手が小規模ドメーヌ的な運営へと舵を切った象徴的な事例と言えるでしょう(ブルゴーニュの畑単位の価値観についてはボルドー vs ブルゴーニュ比較をご参照ください)。

アルテミス・ドメーヌとは——ピノー家が擁する名門グループ

ヴィニョーブル・デ・カボットを所有するアルテミス・ドメーヌは、ケリング(グッチ、サンローラン等を擁するラグジュアリー企業)の創業者フランソワ・ピノー氏の family holding が母体となるワイン事業グループです。その保有する資産は、世界のワイン愛好家を驚かせる顔ぶれです。

ドメーヌ/シャトー 産地 備考
シャトー・ラトゥール ポイヤック(ボルドー) 1855年格付け第1級。1993年取得。プリムール販売から撤退した唯一の一級
クロ・ド・タール モレ・サン・ドニ(ブルゴーニュ) グラン・クリュのモノポール。2017年取得
ドメーヌ・デュジャック モレ・サン・ドニ(ブルゴーニュ) 一部資本参加
ブシャール・ペール・エ・フィス ボーヌ(ブルゴーニュ) 1731年創業の名門。2022年取得
シャトー・グリエ ローヌ(コンドリュー近郊) ヴィオニエのモノポールAOC
ドメーヌ・デュゼール ローヌ —
アイゼル・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー(米) —
ユージニア・ヴィンヤード オレゴン(米) —
シャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェ ピュリニー・モンラッシェ カボットの新醸造所が建設される拠点

カボットの醸造チームは、こうしたグループ内の他ドメーヌとの知見共有も行っています。ウェベール氏は「ボルドーやオレゴンのドメーヌと経験を交差させている」と述べており、産地を越えた技術の融合がこの新ドメーヌの特徴のひとつです。

「カボット」とは何か——コート・ドールの石積み小屋

ドメーヌ名の由来となった「カボット(cabotte)」とは、コート・ドールのブドウ畑に点在する石積み(ドライストーン)の小屋のことです。モルタルを使わず、畑から出た石灰岩を積み上げただけで造られたこれらの小屋は、何世紀にもわたり、畑仕事をする人々の休憩所、道具置き場、そして雨宿りの場として使われてきました。「カバンヌ(cabane=小屋)」から派生した言葉で、地域によっては「カデュール(cadole)」とも呼ばれます。

カボットは単なる建造物ではなく、何世紀にもわたる畑仕事の技術と、造り手とこの土地との深い結びつきの象徴です。ドメーヌはシュヴァリエ・モンラッシェ、コルトン、そしてヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュの畑内に複数のカボットを所有しており、伝統的な工法に忠実な修復・維持をチームの重要な仕事と位置づけています。

グラン・クリュのひとつには「シュヴァリエ・モンラッシェ ラ・カボット(La Cabotte)」という、わずか0.21haの区画から生まれる特別なキュヴェが存在し、これがドメーヌ名の直接的な由来となっています。派手なブランド名ではなく、畑に立つ無名の石積み小屋を名前に選んだこと自体が、このドメーヌの姿勢を物語っています。

畑の構成——モンラッシェからランファン・ジェズュまで

ヴィニョーブル・デ・カボットが所有する約35haは、コート・ド・ボーヌの中でも特に評価の高い区画に集中しています。標高200〜300m、石灰質粘土と粘土質の下層土という、シャルドネとピノ・ノワールの双方に理想的な条件です。

白ワインの畑——モンラッシェ丘陵とコルトン

白の中核は、ピュリニー・モンラッシェのグラン・クリュ群(モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェ、うち0.21haの「ラ・カボット」区画)と、コルトン・シャルルマーニュ。さらにムルソーの主要プルミエ・クリュであるペリエール・ジュヌヴリエール・シャルム、そして村名でありながら名高いレ・クルーが並びます。ボーヌのプルミエ・クリュ白クロ・サン・ランドリーも含まれます。

赤ワインの畑——ランファン・ジェズュとモノポール

赤の象徴が、ボーヌ・プルミエ・クリュレ・グレーヴ「ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ(幼子イエスの畑)」です。17世紀のカルメル会修道女の予言に由来するこの名は、ブルゴーニュで最も有名な区画名のひとつ。さらにボーヌ・プルミエ・クリュのクロ・ド・ラ・ムース(モノポール=単独所有)とレ・トゥーロン、ヴォルネイ・プルミエ・クリュの名高いレ・カイユレ「アンシエンヌ・キュヴェ・カルノー」、サヴィニー・レ・ボーヌ・プルミエ・クリュレ・ラヴィエール、そしてグラン・クリュコルトン「ル・コルトン」という構成です。

全15アイテム一覧——ファーストヴィンテージ2023

2023年がヴィニョーブル・デ・カボットとしてのファーストヴィンテージであり、2026年から市場に登場しています。白9アイテム・赤6アイテムの計15アイテムという構成です。

白ワイン(9アイテム)

キュヴェ 格付け 備考
ムルソー レ・クルー 村名 レモンオイル・青リンゴ・白い花・砕いた石。精緻で直線的、塩気のあるチョーキーな核。仏樽発酵+シュール・リー約1年、新樽比率は抑制的
ムルソー ジュヌヴリエール 1級 ムルソーの主要プルミエ・クリュ
ムルソー ペリエール 1級 ムルソー最上とされる区画
ムルソー シャルム 1級 豊潤さで知られる
ボーヌ クロ・サン・ランドリー 1級(白) ボーヌの希少な白
コルトン・シャルルマーニュ 特級 コルトン丘の白の頂点
シュヴァリエ・モンラッシェ 特級 —
シュヴァリエ・モンラッシェ ラ・カボット 特級 わずか0.21ha。ドメーヌ名の由来。例外的な密度とレモンタルトのニュアンス
モンラッシェ 特級 世界最高の白ワイン畑

赤ワイン(6アイテム)

キュヴェ 格付け 備考
サヴィニー・レ・ボーヌ レ・ラヴィエール 1級 —
ボーヌ レ・トゥーロン 1級 —
ボーヌ クロ・ド・ラ・ムース 1級・モノポール 単独所有区画
ボーヌ レ・グレーヴ ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ 1級 ブルゴーニュ屈指の名高い区画名
ヴォルネイ レ・カイユレ アンシエンヌ・キュヴェ・カルノー 1級 ヴォルネイ最上の区画のひとつ
コルトン ル・コルトン 特級 コルトン丘の赤

なお、英国での独占販売元であるベリー・ブラザーズ&ラッドは、ファーストヴィンテージの提供に際し「極めて大きな需要が見込まれるため、最も人気の高い白ワイン——プルミエ・クリュ群とモンラッシェ——は厳格な割当制でのみ提供する」と発表しています。日本市場でも入手は極めて限定的になると予想されます。

ブシャール・ペール・エ・フィスはどうなるのか

「カボットができたらブシャールはなくなるのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。答えは「ブシャール・ペール・エ・フィスは存続する」です。今回の再編は、ブシャールが持っていた資産を「自社畑ドメーヌ(=カボット)」と「ネゴシアン事業(=ブシャール)」に機能分離したもので、ブシャールの名前とネゴシアン業務、そしてボーヌの歴史的な拠点は引き続き存続します。

ただし実務上は、これまでブシャールのラベルで親しまれてきた最上級キュヴェ——モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュ、ムルソー・ペリエール、ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ——は、2023年以降カボットのラベルに移行します。したがって「ブシャール・ペール・エ・フィス」名義のこれらのワインは2022年ヴィンテージが最後となり、既存の在庫やバックヴィンテージの希少性が高まる可能性があります。この点は、熟成ワインやコレクションを考える際の重要なポイントです(熟成ワインの選び方もご参照ください)。

これは何を意味するのか——ブルゴーニュの潮流から読む

① 「ネゴシアン」から「ドメーヌ」への価値の移動

ブルゴーニュでは長年、ルイ・ジャド、ジョゼフ・ドルーアン、フェヴレ、ブシャールといった大手ネゴシアンがブランドとして機能してきました。しかし2000年代以降、評価の軸は「どの畑を自社で所有し、自ら耕しているか」へと明確に移行しています。カボットの設立は、この潮流に大手自身が応えた動きと読めます。

② 面積を「減らす」ことが品質向上になるという逆説

通常、企業は規模の拡大を目指します。しかしカボットは、130haから35haへと意図的に対象を絞り込むことで品質を上げようとしています。「精度(précision)」という言葉が繰り返し使われているのが象徴的です。同じ人員で4分の1の面積に向き合えば、区画ごとの収穫タイミング、選果、醸造の判断がまったく変わります。

③ 新しい名前が定着するまでの時間

一方で課題もあります。「ブシャール・ペール・エ・フィスのモンラッシェ」という300年近い蓄積を持つ名前を手放し、まったく無名の「ヴィニョーブル・デ・カボット」として市場に出ることは、ブランド論としては大きな賭けです。中身が同じテロワールであっても、二次流通市場や評価誌での位置づけが固まるまでには数ヴィンテージを要するでしょう。逆に言えば、評価が定着する前の初期ヴィンテージは、愛好家にとって狙い目となる可能性もあります。評価スコアの読み方についてはワイン評価誌・評論家ガイドをご覧ください。

④ 2023年というヴィンテージ

ファーストヴィンテージとなった2023年のブルゴーニュは、白ワインについて特に評価が高く、収量にも恵まれた年とされています。新ドメーヌの船出としては幸運なヴィンテージと言えるでしょう(近年のヴィンテージ傾向は2024年ヴィンテージ解説もご参照ください)。

まとめ

ヴィニョーブル・デ・カボット 要点まとめ
① 2025年、アルテミス・ドメーヌ(シャトー・ラトゥール、クロ・ド・タール等を擁する)が設立
② ブシャール・ペール・エ・フィスの約130haから、コート・ド・ボーヌの最良区画約35haを分離・独立させたもの
③ 名前の由来は畑に点在する石積み小屋「カボット」。グラン・クリュ「シュヴァリエ・モンラッシェ ラ・カボット」(0.21ha)に直接由来
④ モンラッシェ・シュヴァリエ・モンラッシェ・コルトン・シャルルマーニュ・コルトンの4グラン・クリュに加え、ムルソー3つの1級、ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ、クロ・ド・ラ・ムース(モノポール)、ヴォルネイ・カイユレなど全15アイテム
⑤ ファーストヴィンテージは2023年、2026年から市場登場。将来的にはシャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェの新醸造所で醸造
⑥ 醸造はヴィクトール・ペパンとフレデリック・ウェベール(ブシャールで20年以上)が担当
⑦ ブシャール・ペール・エ・フィスはネゴシアンとして存続。これらの最上級キュヴェのブシャール名義は2022年が最後

ヴィニョーブル・デ・カボットの誕生は、単なるラベルの変更ではありません。「規模ではなく精度へ」「ブランドではなく畑へ」という、現代ブルゴーニュの価値観を、最も歴史ある名門のひとつが体現した出来事です。300年近い名前を手放してまで、35haの区画に集中するという選択が、これから数十年のワインにどう現れるのか——ブルゴーニュ愛好家にとって、最も注目すべきドメーヌのひとつであることは間違いありません。

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