ガンテンバイン / Gantenbain

ガンテンバイン-Wine Library

Gantenbein

「7,000本のワインと一人の顧客もいなかった」——1982年フレッシュのアルプス山麓でマルタとダニエルが始めた、スイスワインの奇跡

ヴァイングート・ガンテンバインは、スイス東部グラウビュンデン州のビュンドナー・ヘルシャフト(ライン川上流域)に位置するフレッシュ村の外れに1982年に設立されたワイナリーです。マルタとダニエル・ガンテンバインは「最高のシェフのもとで学ばなければ、料理はできるようにならない」というモットーのもと、独学で技術を磨き、ブルゴーニュのトップドメーヌとモーゼルの頂点のワインを繰り返し訪問・試飲しながら目指すスタイルを明確にしました。「私たちはただ独立したかった。従業員として働くのが我慢できなかった。当時の女性には管理職などありえなかった」——マルタのこの言葉が夫婦の挑戦の出発点を語っています。義父のもとからすぐに独立し、「7,000本のワインと一人の顧客もいない」状態から始まったという創業期の逸話が、この夫婦の素直さと覚悟を伝えています。

畑はフレッシュ村を取り囲む標高約500メートルのアルプス山麓の崖錘・片岩・石灰岩斜面に合計6ヘクタールが広がります。ピノ・ノワールが約5ヘクタール(12.5エーカー)、シャルドネが約1ヘクタール(2.5エーカー)、そしてモーゼル原産の苗木を植えた希少なリースリングが約0.2ヘクタール(0.5エーカー)という構成で、畑のすべての作業は夫婦自身の手で行われます。既存の品種を引き抜き、ブルゴーニュ選抜の小粒クローン(ピノ・ノワールとシャルドネ)を新たに植え直すという根本的な転換からスタート。1991年からはドイツ産のオーク樽の実験を開始し、国内外から高い評価を獲得したことが現在のスタイルの礎となっています。2008年には建築家フォンティン・バース&ドゥプラゼ=ラドナーによって設計された印象的なレンガファサードの醸造棟(グラヴィティ・フロー方式)が完成し、ワイナリー自体もデザインの傑作として注目されています。

品種ごとに1ワインのみ——25hl/haの極低収量・グラヴィティ・フロー・無フィルター・無清澄が生む、10年後にブルゴーニュのグラン・クリュを凌ぐスイスのカルトワイン

ガンテンバインのワイン哲学の核心は、品種ごとにただ1種類のワインのみを生産するという徹底した選択と集中にあります。ピノ・ノワール1種、シャルドネ1種、リースリング1種——この3本がラインナップのすべてです。収量は約25hl/haという極限まで抑えられ、熟していない実や腐敗した実は天使のような忍耐力で毎日ひとつひとつ手で取り除かれます。醸造は開放型木製ヴァットで全房発酵させた後、ピノ・ノワールはブルゴーニュのバリックで、シャルドネは新樽で熟成。ブドウと果汁はポンプもフィルターも使わないグラヴィティ・フロー(重力流)のみで移送され、無清澄・無濾過で瓶詰めされます。このミクロな生産量ゆえに、ワインは瓶詰め前にすでに長年の顧客に完売する状態が続いており「マッターホルンを草履で登る方がガンテンバインの1本を手に入れるより簡単だ」と評されるほどの入手困難なカルトワインとなっています。ブラインドテイスティングで10年後にブルゴーニュの多くのグラン・クリュを凌ぐと言われるこれらのワインは、スイスワインの可能性を世界に示した歴史的な存在です。