ミュスカ / Muscat
Muscat
古代ギリシャ起源、「蜂を惹きつけるブドウ」——人類最古の品種群のひとつが示す、辛口から極甘口まで世界最大の芳香の振れ幅
ミュスカ(ムスカ)は、世界で最も広く栽培されるブドウ品種群のひとつで、200以上の変種・亜種が存在するとされる大家族です。その起源は古代ギリシャに遡り、ギリシャのマルセイユ入植を通じてローマ時代にフランスへ伝わったとされています。かつては「アピエナ・ウヴァ(蜂を惹きつけるブドウ)」と呼ばれており、その名は品種の強烈な甘い香りを見事に表しています。ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン(小粒のミュスカ)はシャルルマーニュ大帝の時代にはすでにフロンティニャンの主要輸出品として記録されており、12世紀にはドイツでも栽培が確認されています。現在フランス国内だけで約7,000ヘクタールのミュスカが栽培されており、その大部分はラングドック=ルシヨン、プロヴァンス、南ローヌに集中しています。世界全体ではイタリア、ギリシャ、トルコ、スペイン、ポルトガル、オーストラリアなど45,000ヘクタール以上に広がっています。
ミュスカ品種群の中で最も評価が高いとされるのが「ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン」で、小さな果粒(プティ・グラン)を持つことに由来します。果粒が小さいほどアロマ成分が濃縮されるため、この品種は特に芳香が豊かです。DNA解析により、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランはミュスカ・ダレクサンドリー(イタリア語:ジビッボ)の親品種であることが判明しており、品種群全体の起源に位置する最古の変種といえます。アルザスではかつてこの品種が広く栽培されていましたが、現在のアルザスのミュスカは主にミュスカ・オトネル(1852年にロワールで育成された品種)との混醸が主流となっており、アルザスのグラン・クリュに認められた4品種のひとつとしての地位を保っています。
オレンジの花とライチ——辛口のアルザスから極甘口のボーム・ド・ヴニーズ、発泡のモスカート・ダスティまで
ミュスカのワインは、オレンジの花、ライチ、マスカット・グレープ、バラの花びらというアロマが際立つ、品種の個性が最も直接的にワインに現れる白ブドウのひとつです。単調な甘さに陥るかと思えば、造り手の腕次第で驚くほど多彩なスタイルを生み出します。アルザスでは辛口(セック)スタイルのミュスカ・ダルザスが造られ、芳香豊かでありながらすっきりとした食前酒として評価されています。南ローヌのボーム・ド・ヴニーズでは1945年にAOCとして認定されたミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズが、ヴァン・ドゥー・ナチュレル(天然甘口酒精強化ワイン)として高い評価を受けています。イタリアのピエモンテではモスカート・ビアンコ(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランのイタリア語名)からモスカート・ダスティという低アルコールの微発泡甘口ワインが生まれ、シチリア島パンテッレリーア島ではモスカート・ディ・パンテッレリーアという濃密な甘口が造られます。オーストラリアのラザグレン地区ではブラウン・ミュスカ(同じ品種のオーストラリア名)から世界最高峰の極甘口強化ワインのひとつが生まれ、多様なスタイルの中でミュスカ品種群の底なしの表現力を証明しています。