パトリック・ジャヴィリエ /Patrick Javillier

Patrick Javillier
ムルソーの誇りと誠実を受け継ぐ、静謐なる名匠
ブルゴーニュ地方の白ワインを語るとき、ムルソー村という名は必ず挙げられます。その中心で、過度な装飾を排した純粋な味わいを追求し続けているのが、ドメーヌ・パトリック・ジャヴィリエ(Domaine Patrick Javillier) です。控えめな姿勢と緻密な仕事で知られ、華やかさよりも誠実さを重んじる造り手として、世界中のソムリエや愛好家から絶大な信頼を得ています。メルソーの「黄金の丘(Côte d’Or)」の中でも、ジャヴィリエのワインは光よりもむしろ静かな余韻で印象を残す——そんな表現が最もふさわしいと言えるでしょう。ドメーヌはムルソー中心部のサン=ニコラ通りに所在し、古くからこの村に根を張ってきた家族経営の小規模生産者です。現在では白ワインを主軸に、少量ながら赤ワインも手がけています。所有畑はおよそ11ヘクタール。ムルソーのほか、サヴィニィ=レ=ボーヌ、アロース=コルトン、ペルナン=ヴェルジュレスといった北部コート・ド・ボーヌの村にも区画を持ち、それぞれの土壌特性を的確に反映させています。
ドメーヌの歴史は20世紀半ばに始まります。創設者パトリック・ジャヴィリエは、ディジョン大学で醸造学を修めたのち、1974年に実家のブドウ畑を引き継ぎ、自らの名を冠したドメーヌを立ち上げました。当初はわずか数ヘクタールからのスタートでしたが、彼の緻密な仕事ぶりはすぐに注目を集め、1980年代から1990年代にかけて所有地を拡大していきます。メルソーの名だたる区画「レ・ティレ(Les Tillets)」「クロー・デュ・クロマン(Clos du Cromin)」「レ・クルソ(Les Clousots)」「テート・ド・ミュルジェ(Tête de Murger)」などを手中に収め、現在ではメルソーを代表するドメーヌのひとつとされています。
パトリックの娘マリオンと、娘婿であるピエール=エマニュエル・ラミー(Pierre-Emmanuel Lamy)が加わり、近年は新しい世代による柔軟な発想と伝統の両立が進められています。マリオンが赤ワインを、ラミーが白ワインをそれぞれ担当し、世代交代後も一貫した品質と個性を守り続けています。ジャヴィリエ家のワイン造りは、何よりも「土地を語ること」、そして「時間を味方につけること」を中心に据えています。
ドメーヌ・パトリック・ジャヴィリエの真骨頂は、区画ごとの個性を繊細に描き出すその表現力にあります。ムルソーのレ・ティレは標高が高く冷涼で、白い花や柑橘の香りと、張りのある酸が特徴です。一方、クロ・デュ・クロマンはより粘土質の強い土壌で、丸みと厚みのある果実味をもたらします。レ・クルソやテート・ド・ミュルジェは、ミネラルと熟した果実のバランスに優れ、熟成に耐える骨格を備えています。
さらに、ムルソーの外側では、ペルナン・ヴェルジュレスやアロース・コルトンで栽培されるピノ・ノワールが赤ワインとして造られています。これらの赤は華美ではないものの、果実のピュアさと酸の清冽さを大切にした、繊細で料理との相性に優れたスタイルです。加えて、ジャヴィリエ家はコルトン・シャルルマーニュにも畑を所有しており、その白は荘厳なミネラルと張り、そして長い熟成ポテンシャルを誇ります。
清楚にして深遠、ブルゴーニュ・ブランの静かな美徳
ジャヴィリエの白ワインは、香り立ちが穏やかでありながら、時間の経過とともにその奥深さを現していきます。若いワインでは白桃や柑橘、ハーブ、白い花の香りが主軸を成し、口に含むとレモンピールのような酸とともに塩味を帯びたミネラルが広がります。熟成が進むと、蜂蜜やローストナッツ、ドライハーブのニュアンスが現れ、やわらかな粘性と深みが加わります。そのスタイルは、しばしば「コシュ・デュリの洗練、コント・ラフォンの気品、そしてジャヴィリエの誠実」と並び称されます。
中でも特筆すべきは、ブルゴーニュの白ワインの頂点として名高い「コルトン・シャルルマーニュ」。その偉大な畑から生まれるジャヴィリエのワインは、圧倒的な純度と緊張感を湛えた一本です。メルソーの名匠として知られるパトリック・ジャヴィリエが手がけるこのグラン・クリュは、畑の高い標高と風通しの良さがもたらす涼やかな酸、そして石灰岩質のテロワールが生むミネラルの力強さを見事に表現しています。
若いヴィンテージでは白桃やレモンピール、アプリコットの香りに、ヘーゼルナッツや砕いた石のニュアンスが重なり、時間の経過とともに蜜や焼きリンゴ、バターの香りが現れます。味わいは緻密で力強く、キリッとした酸と豊かな果実味が共鳴し、長い余韻の中に塩味を帯びたミネラルが静かに残ります。樽の使用は控えめで、木の香りはあくまで背景にとどまり、果実とテロワールの透明感を際立たせています。その気品ある構成はまさにコルトン・シャルルマーニュの典型でありながら、ジャヴィリエらしい誠実さと緻密さが加わることで、他にはない静謐なエネルギーを感じさせます。熟成ポテンシャルも極めて高く、10年以上の熟成を経て真価を発揮する偉大な白ワインです。世界的評論家からも高い評価を受け、数量はごく僅か。ブルゴーニュ白の頂を求める方にこそふさわしい一本です。
一方、赤ワインは香りの透明感が際立ち、ラズベリーやスミレの華やかさに、軽やかなタンニンと美しい酸が調和します。アルコール感を控え、ピュアな果実味を前面に出したスタイルは、食事との相性が非常に良く、ブルゴーニュのエレガンスを日常的に楽しめる赤として高い評価を得ています。