クロ・ド・タール/Clos de Tart(Mommessin)

クロ・ド・タール-Wine Library

Clos de Tart(Mommessin

モレ=サン=ドニの心臓に息づく唯一無二のモノポール・グラン・クリュ

 フランス・ブルゴーニュ地方、コート・ド・ニュイ地区モレ=サン=ドニ村の中心に位置する**クロ・ド・タール(Clos de Tart)は、世界でも稀な「モノポール(単独所有)」のグラン・クリュとして知られています。その名の通り、7.53ヘクタールの畑全体が石壁に囲まれ、所有も栽培も醸造もすべて一つのドメーヌによって行われています。この「単一性」がもたらす一貫したテロワール表現こそが、クロ・ド・タールの最大の特徴であり、ブルゴーニュにおける孤高の存在感を確立しています。

 クロ・ド・タールの起源は12世紀に遡ります。1141年、シトー派修道士たちによって開墾されたこの土地は、当初から「Clos」と呼ばれる囲い壁を持つ特別な区画でした。修道士たちは土壌の性質を理解し、ブドウの栽培に最適な場所として丹念に管理を続けました。フランス革命後に教会財産が国有化されると、この畑は民間の手に渡り、1932年に名門モメサン家(Mommessin family)が取得。彼らの管理のもと、クロ・ド・タールはブルゴーニュを代表するグラン・クリュとしての地位を確立します。そして2018年、ピノー家が率いる「アルテミス・ドメーヌ」(Artémis Domaines)が買収し、現代の新たな章が始まりました。アルテミスはドメーヌ・デュ・コント・ラフォンやシャトー・ラトゥールなどを所有するフランス最高峰のワイングループであり、その厳格な品質哲学がクロ・ド・タールの中に息づいています。

 モレ・サン・ドニの中心に位置する黄金の斜面

 クロ・ド・タールの畑は、モレ=サン=ドニ村の丘陵南端に位置し、北にクロ・デ・ランブレイ、南にボンヌ・マールを望みます。標高は260〜300メートル。緩やかな東南東向きの斜面は、朝日を受ける理想的な方角にあり、昼夜の寒暖差によってブドウに豊かな香りと酸を与えます。
土壌は粘土と石灰岩が複雑に入り混じり、上部には軽い石灰岩質、下部には粘土が厚く堆積しており、ブドウは深く根を下ろしてミネラルを吸い上げます。これにより、ワインには華やかさと骨格、そして長い熟成を支える構造が備わります。

 ブドウ品種はピノ・ノワール(Pinot Noir)のみ。平均樹齢は50年以上に及び、一部には100年を超える古木も残されています。ブドウはすべて手摘みで収穫され、区画ごとに選果・仕込みが行われます。栽培はリュット・レゾネ(環境負荷を抑える持続的農法)を実践しており、化学肥料は使わず、自然のリズムを尊重した栽培が徹底されています。

 クロ・ド・タールの醸造は、ブルゴーニュの伝統を受け継ぎながらも極めて精緻です。発酵は区画ごとに分けて行われ、果実の個性に合わせて除梗率を変えます。発酵槽には温度制御付きの木製タンクとステンレスタンクを併用し、発酵温度と抽出の度合いを緻密に管理します。発酵後、ワインは新樽を多めに使用したフレンチオーク樽で18〜20か月間熟成され、澱引きや濾過は最小限に抑えられます。その結果生まれるワインは、ピノ・ノワールの官能性とクロ・ド・タール固有のミネラル感を兼ね備えた傑出した個性を放ちます。アルテミス・ドメーヌ体制以降、醸造責任者のジャック・デヴォー(Jacques Devaux)らが新たな設備と哲学を導入し、これまで以上に精密で洗練されたスタイルへと進化しています。

 ブルゴーニュの多くのグラン・クリュが複数の所有者によって細分化されている中で、クロ・ド・タールが持つ「モノポール」という特性は極めて貴重です。単独所有であるがゆえに、栽培・収穫・醸造の全工程が一貫しており、ヴィンテージ間の変化を最小限に抑えながら、土地の個性を最大限に引き出せます。この「完全なテロワール表現」は、ブルゴーニュにおいて非常に珍しく、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの「ラ・ターシュ」などごくわずかな例にしか見られません。クロ・ド・タールの一貫した品質は、まさにこの哲学の結晶です。