ミュラー・トゥルガウ / Muller Thurgau

Müller-Thurgau
「リースリング×ジルヴァーナー」という100年の誤解——2000年のDNA解析が暴いた、ドイツ第二の白ブドウの真の素性
ミュラー・トゥルガウは、ドイツにおけるリースリングに次ぐ第二位の栽培面積(約10,511ヘクタール、2024年)を持つ白ブドウ品種です。1882年にスイスのトゥルガウ州出身の植物学者ヘルマン・ミュラー博士がドイツのガイゼンハイム醸造研究所で育成したことから、育成者名+出身地を冠した品種名が付けられました。1913年に「ミュラー・トゥルガウ」として正式命名されるまでの間、育成者自身の報告に基づき長らく「リースリング×ジルヴァーナーの交配種」と信じられてきましたが、2000年のDNA解析によってその信念が覆されました。真の両親はリースリングと「マドレーヌ・ロワイヤル」(1845年にロワールの苗床で選抜された早熟の食用ブドウ品種で、ピノとトロリンガーの交配)であることが判明したのです。スイスでは今も「リースリング×ジルヴァーナー」という誤った名称が使い続けられており、EUはこの表記を誤解を招くとして使用禁止にしています。「リヴァーナー(Rivaner)」という別名はリースリングとジルヴァーナーを合成した略称ですが、これも本来の親子関係とは異なります。
ガイゼンハイムで育成された苗はその後スイスのウェーデンスヴィルで150本の実生から選抜・増殖され、1913年に最初の100本がドイツへ返還されました。第二次大戦後に台木接ぎへの転換が進むなかで大規模植栽が行われ、1970年代から1996年まで25,000ヘクタール超でドイツ品種別栽培面積第一位を記録しました。豊産性が高く幅広い立地に適応するというミュラー・トゥルガウの特性が、戦後ドイツワイン産業の再建を文字通り支えたのです。しかし1980〜90年代に消費者の嗜好がドライスタイルへと移行するとともに栽培面積は急速に縮小し、現在の10,511ヘクタールという数字は最盛期から半分以下となっています。現在の主要産地はラインヘッセン(約3,834ha)、バーデン(約2,160ha)、プファルツ(約1,591ha)、フランケン(約1,375ha)、モーゼル(約743ha)です。
「リープフラウミルヒの素材」を超えた可能性——フランケンとイタリア北部が示す、ミュラー・トゥルガウの本来の底力
ミュラー・トゥルガウのワインは、桃や花のアロマにマスカット的なニュアンスが加わる軽快でフルーティなスタイルが基本で、酸は控えめになりやすく全体的に穏やかな印象を与えます。多くの評論家から「ドイツを大量のボンヤリした半甘口で覆ったリープフラウミルヒの主要素材」として厳しく批評されてきた歴史を持ちますが、収量を抑えた栽培では品質は大きく変わります。フランケンの造り手が手がける辛口ミュラー・トゥルガウはよりミネラル感があり骨格がしっかりしており、またイタリア北部のトレンティーノ=アルト・アディジェでは古樹と急峻な標高の高い畑から、長熟にも対応できるより本格的な表現が生まれます。ルクセンブルクではリヴァーナーとして国民的白ワインの地位を占めており、スイスのトゥルガウ州、アールガウ州、グラウビュンデン州でも栽培が盛んです。戦後ドイツワイン産業を支えたという歴史的功績は評価されるべきであり、適切な栽培条件のもとでこの品種が示すポテンシャルは今も再評価の余地を残しています。