ブルゴーニュワインの品種を徹底解説|ピノ・ノワールとシャルドネだけではない
ブルゴーニュワイン品種ピノ・ノワールシャルドネアリゴテ
ブルゴーニュワインの品種は、驚くほどシンプルです。赤はピノ・ノワール、白はシャルドネ。この2品種で、ブルゴーニュの栽培面積の約8割を占めます。ボルドーが5品種以上をブレンドし、ローヌが13品種を認めていることを思えば、これは異例の少なさです。
ではなぜブルゴーニュは品種を絞ったのか。答えは「品種を固定することで、土地の違いを可視化するため」です。同じピノ・ノワールを植えて、ジュヴレとシャンボールで味が変わるなら、その差は土地に由来する——この論理がクリマ(区画)の思想を支えています。
ただし「2品種だけ」というのも正確ではありません。アリゴテ、ガメイ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ(ピノ・ボーロ)、セザール、サシー、ムロン・ド・ブルゴーニュ——認可品種はもっと多く、近年その一部が再評価されています。この記事では、ブルゴーニュワインの品種を主役から脇役まで解説します。
ブルゴーニュワインで使われる品種を、栽培面積の目安とともに整理します。
品種シャルドネ
色白
おおよその比率約46%
主な使われ方ブルゴーニュ白のほぼすべて。シャブリ、コート・ド・ボーヌ、マコネー
品種ピノ・ノワール
色黒
おおよその比率約36%
主な使われ方ブルゴーニュ赤のほぼすべて。コート・ドールの主役
品種ガメイ
色黒
おおよその比率約10%
主な使われ方主にボージョレ(行政上はブルゴーニュ地方に含まれる)、マコネー、ブルゴーニュ・パス・トゥー・グラン
品種アリゴテ
色白
おおよその比率約6%
主な使われ方ブルゴーニュ・アリゴテ、ブーズロン
品種ピノ・ブラン/ピノ・グリ(ピノ・ボーロ)
色白
おおよその比率ごく少量
主な使われ方一部の白に補助的に混醸可
品種セザール
色黒
おおよその比率極少量
主な使われ方イランシー(ヨンヌ県)でピノ・ノワールに少量ブレンド
品種サシー/ムロン・ド・ブルゴーニュ
色白
おおよその比率極少量
主な使われ方ごく限られた地域の伝統品種
ボージョレの扱い
ガメイの比率が高く見えるのは、行政区分上ボージョレがブルゴーニュ地方に含まれるためです。一般に「ブルゴーニュワイン」と言うときはコート・ドールを中心とした地域を指し、ボージョレは別扱いされることがほとんどです。
ピノ・ノワール——ブルゴーニュ赤ワインの絶対的主役
ブルゴーニュワインの品種といえば、赤はピノ・ノワール一択です。マルサネからマランジュまで、コート・ドールの赤はすべてこの品種から造られます(一部の混醸を除く)。
ピノ・ノワールという品種の性質
項目果皮
内容薄い。色素とタンニンが少なく、淡いルビー色になる
項目房の形
内容小さく密着した円錐形(松かさ=pin に似ることが名前の由来とされる)
項目栽培の難しさ
内容房が密着するため灰色カビ病に弱い。早熟で春の霜害を受けやすい。気候への感受性が極端に高い
項目遺伝的特性
内容突然変異を起こしやすく、クローンの種類が非常に多い。ピノ・グリ、ピノ・ブラン、ピノ・ムニエもピノ・ノワールの変異体
項目土地の表現力
内容世界のブドウ品種の中で最も土壌・微気候の差を味に反映する。これがクリマ思想の前提
「ピノ・ノワールは難しい品種だ」と言われるのは、ごまかしが効かないからです。果皮が薄く色素もタンニンも少ないため、濃く抽出して欠点を隠すことができない。畑の質と造り手の判断が、そのまま瓶の中に出ます。
産地によるピノ・ノワールの違い
産地ジュヴレ・シャンベルタン
香り・味わいの傾向黒系果実、甘草、大地。筋肉質で長期熟成型
産地シャンボール・ミュジニー
香り・味わいの傾向薔薇、スミレ、赤い果実。レースのように繊細なタンニン
産地ヴォーヌ・ロマネ
香り・味わいの傾向スパイス、東洋的な香木、凝縮した黒い果実。圧倒的な気品
産地ニュイ・サン・ジョルジュ
香り・味わいの傾向鉄、土、黒胡椒。がっしりした構造
産地ポマール
香り・味わいの傾向鉄分の多い土壌由来の厚いタンニン。コート・ド・ボーヌで最も骨太
産地ヴォルネイ
香り・味わいの傾向スミレと赤スグリ。コート・ド・ボーヌ最も優美
産地マルサネ
香り・味わいの傾向明るい赤系果実。若々しく価格対効果が高い
同じ品種でこれだけ差が出る——これこそがブルゴーニュが品種を1つに絞った理由です。
▶ ピノ・ノワールのワインを見る▶ ジュヴレ・シャンベルタンのワインを見る▶ シャンボール・ミュジニーのワインを見る▶ ヴォーヌ・ロマネのワインを見る
シャルドネ——世界の白ワインの基準を作ったブルゴーニュ白ワイン品種
シャルドネは、ブルゴーニュワインの品種のなかで栽培面積が最大です。そして世界中に広まり、いまや「白ワイン品種の国際標準」になりました。その基準を作ったのがブルゴーニュです。
シャルドネという品種の性質
項目出自
内容グエ・ブランとピノ・ノワールの自然交雑によって生まれたことがDNA解析で判明している
項目香りの個性
内容品種自体の香りは中立的で控えめ。だからこそ土壌・気候・醸造の影響がそのまま現れる
項目栽培適性
内容冷涼から温暖まで幅広く適応。早熟で春霜に弱い(シャブリの霜害が有名)
項目醸造の可変性
内容ステンレスか樽か、マロラクティック発酵の有無、澱との接触期間で味が大きく変わる
シャルドネは「無個性」ではなく「透明」
シャルドネがソーヴィニヨン・ブランやゲヴュルツトラミネールのような強いアロマを持たないのは、欠点ではありません。土地と造りを映す透明な媒体だからこそ、シャブリの貝殻のようなミネラルと、ムルソーのナッツの厚みという、まったく違う表現が同じ品種から生まれます。
産地によるシャルドネの違い
産地シャブリ
特徴キンメリジャン(牡蠣の化石を含む石灰質泥灰土)。鋭い酸、レモン、貝殻・火打石のミネラル。樽を使わないスタイルが基本
産地コート・ド・ボーヌ(ムルソー)
特徴ナッツ、バター、ヘーゼルナッツ。厚みとまろやかさ。樽熟成が生きる
産地コート・ド・ボーヌ(ピュリニー)
特徴柑橘と白い花、火打石。緊張感と垂直の構造
産地コート・ド・ボーヌ(シャサーニュ)
特徴ピュリニーより丸く、蜜とアーモンド
産地コート・シャロネーズ(リュリー、モンタニー)
特徴明るい果実と酸。価格が理性的
産地マコネー(プイィ・フュイッセ、サン・ヴェラン)
特徴温暖で果実が豊か。洋梨や白桃。コストパフォーマンスが高い
▶ シャルドネのワインを見る▶ シャブリのワインを見る▶ ムルソーのワインを見る▶ ピュリニー・モンラッシェのワインを見る
ブルゴーニュワインの品種のなかで、いま最も面白い変化が起きているのがアリゴテです。
アリゴテもシャルドネと同じくグエ・ブランとピノ・ノワールの交雑から生まれた、シャルドネの兄弟品種。しかし長らく「シャルドネを植えられない劣った区画に植える二流品種」「キールのベース用」という扱いを受けてきました。
項目味わい
内容高い酸、青リンゴ、レモン、白い花。シャルドネより痩せているが、その分キレがある
項目AOC
内容「ブルゴーニュ・アリゴテ」が地方名AOC。コート・シャロネーズのブーズロンだけが村名AOCとしてアリゴテを名乗れる
項目再評価の理由
内容①温暖化で酸の高さが武器になった ②古木のアリゴテが良質な区画に残っていた ③シャルドネの価格高騰で、造り手が本気で取り組み始めた
項目現在の動き
内容コート・ドールのトップ生産者が、真剣にアリゴテを造り始めている。「レ・ザリゴトゥール」という生産者団体も発足
キールの由来
アリゴテにカシスリキュールを加えるカクテル「キール」は、第二次大戦後にディジョン市長フェリックス・キール氏が広めたもの。酸の強いアリゴテを飲みやすくする工夫でしたが、いまやそのままで十分に美味しいアリゴテが増えています。
ガメイはブルゴーニュワインの品種史のなかで、もっとも劇的な運命をたどった品種です。
1395年、ブルゴーニュ公フィリップ2世(豪胆公)が、ガメイを「きわめて邪悪で不誠実な植物」と断じ、コート・ドールからの引き抜きを命じました。理由は、ガメイが多収で栽培しやすく、ピノ・ノワールを駆逐しかねなかったこと。この勅令が、コート・ドール=ピノ・ノワールという現在の構造を決定づけました。
追われたガメイは、南の花崗岩質の土地——ボージョレに根を下ろし、そこで本領を発揮します。皮肉なことに、ガメイは花崗岩土壌でこそ真価を出す品種だったのです。
AOC/スタイルボージョレ
内容ガメイ100%。花崗岩土壌のクリュ・ボージョレ(ムーラン・ナ・ヴァン、モルゴンなど)は長期熟成もする
AOC/スタイルブルゴーニュ・パス・トゥー・グラン
内容ピノ・ノワールとガメイのブレンド(ピノ30%以上)。伝統的な日常ワイン
AOC/スタイルコトー・ブルギニヨン
内容ブルゴーニュ地方全域で使える広域AOC。ガメイ単独も可
AOC/スタイルマコネー
内容一部でガメイが栽培される
近年はマセラシオン・カルボニックに頼らない、全房発酵のシリアスなガメイが評価され、「ガメイは軽い品種」という認識も変わりつつあります。
品種ピノ・ブラン
使われ方ピノ・ノワールの白変異。一部の白AOCでシャルドネへの混醸が認められる。単独で瓶詰めする造り手もごく少数存在
品種ピノ・グリ(ピノ・ボーロ)
使われ方ブルゴーニュでは「Pinot Beurot」と呼ばれる。白ワインへの少量混醸が伝統的に認められてきた
品種セザール
使われ方ヨンヌ県イランシーで、ピノ・ノワールに最大10%程度ブレンドされる古代品種。ローマ時代に由来するとされる。色とタンニンを補強する
品種サシー(Sacy)
使われ方ヨンヌ県の白品種。クレマン・ド・ブルゴーニュへの使用が認められる
品種ムロン・ド・ブルゴーニュ
使われ方名前にブルゴーニュを冠するが、現在の主産地はロワール(ミュスカデ)。ブルゴーニュでは極めて稀
これらは量としては微々たるものですが、ブルゴーニュが単一品種の産地だという理解が単純化であることを示しています。
ブルゴーニュワインの品種が少ないことには、明確な歴史的・思想的背景があります。
要因① 1395年の勅令
内容フィリップ豪胆公によるガメイ追放。品質のためにピノ・ノワールを保護した最初の産地政策
要因② 修道院による畑の観察
内容シトー会・クリュニー会の修道士が、何世代にもわたって区画ごとの味の差を記録。品種を固定しないと比較にならない
要因③ 気候の制約
内容ブルゴーニュは冷涼で、成熟する品種が限られる。ピノ・ノワールとシャルドネは早熟でこの気候に適応する
要因④ クリマ思想
内容「土地が味を決める」という思想を証明するには、品種という変数を固定する必要があった
要因⑤ AOC法による固定
内容20世紀のAOC制度が、この慣行を法的に確定させた
ボルドーとの対比
ボルドーは複数品種のブレンドで、ヴィンテージの変動を吸収し、シャトーごとの「味の設計」を行います。ブルゴーニュは品種を固定し、区画の違いをそのまま露出させます。
ボルドーは「造り手が設計する」、ブルゴーニュは「土地が決める」——この哲学の違いが、品種の数の違いとして現れています。
地区シャブリ/ヨンヌ
赤の品種ピノ・ノワール(+セザール)
白の品種シャルドネ、サシー
特記事項イランシーの赤にセザールが混じる
地区コート・ド・ニュイ
赤の品種ピノ・ノワール
白の品種シャルドネ(極少量)
特記事項白はミュジニー・ブラン等、例外的存在
地区コート・ド・ボーヌ
赤の品種ピノ・ノワール
白の品種シャルドネ
特記事項北半分は赤、南半分は白が主役
地区コート・シャロネーズ
赤の品種ピノ・ノワール
白の品種シャルドネ、アリゴテ
特記事項ブーズロンはアリゴテのみの村名AOC
地区マコネー
赤の品種ガメイ、ピノ・ノワール
白の品種シャルドネ
特記事項シャルドネ村が実在。品種名の語源とされる
地区ボージョレ
赤の品種ガメイ
白の品種シャルドネ(少量)
特記事項花崗岩土壌でガメイが本領を発揮
マコネー地方には「シャルドネ(Chardonnay)」という名の村が実在します。品種名の語源とする説が有力で、ブルゴーニュとこの品種の結びつきの古さを物語っています。
▶ コート・シャロネーズのワインを見る
こんな方にピノ・ノワールの入口
品種/産地マルサネ、サヴィニー・レ・ボーヌ、ブルゴーニュ・ルージュ
理由価格が理性的で、品種の果実と酸の骨格がつかみやすい
こんな方にピノ・ノワールの繊細さを知りたい
品種/産地シャンボール・ミュジニー
理由この品種の「軽やかさの美学」が最も純粋に出る村
こんな方にピノ・ノワールの構造を知りたい
品種/産地ジュヴレ・シャンベルタン、ニュイ・サン・ジョルジュ
理由タンニンと骨格が明確。熟成による変化も大きい
こんな方にシャルドネの緊張感を知りたい
品種/産地シャブリ
理由樽を使わない、ミネラルと酸だけのシャルドネ
こんな方にシャルドネの厚みを知りたい
品種/産地ムルソー
理由樽とマロラクティックが生きた、まろやかで豊かなシャルドネ
こんな方にコストパフォーマンス重視
品種/産地マコネー、コート・シャロネーズ、サン・トーバン
理由同じ品種・同じ造りで、価格が数分の一
こんな方に人と違うものを飲みたい
品種/産地アリゴテ、ブーズロン
理由いま最も面白い変化が起きているブルゴーニュの品種
Wine Libraryでは、ピノ・ノワールとシャルドネを品種別コレクションでご覧いただけます。ブルゴーニュとその他の産地の同一品種を飲み比べると、「土地が味を決める」というブルゴーニュの思想が実感として理解できます。
▶ ピノ・ノワールのワインを見る▶ シャルドネのワインを見る▶ ブルゴーニュワインをすべて見る